両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 翔真さんは学生時代剣道をやってきたせいか、姿勢がよく引き締まった体つきをしていて、なにを着ても様になる。
 仕事中のスーツ姿ももちろんかっこいいけれど、ラフな服装の彼も素敵だ。
 カメラマンの佐野さんが、写真を撮りたいと思うのも納得だ。
 こんなふうにリラックスした姿を見られるのは、妻である私だけだという特別感と優越感に胸がおどり頬が緩む。
「いいにおいがしているけど、今日はカレー?」
 彼に問いかけられた私は、緩んだ口元を慌てて引き締め「そうです」とうなずいた。
「実家の家政婦さんが、家庭菜園でとれたお野菜を送ってくれたんです。おかげで栄養満点の料理がお得に作れて……」
 うきうきしながら話し始めた私を見て、翔真さんが苦笑した。
「彩菜は俺からアクセサリーや服をもらうよりも、家政婦さんから野菜を送ってもらうほうがうれしそうだな」
 しまったと思い首を横に振る。
「い、いえっ。そういうわけではっ!!」
 ただでもらった野菜に浮かれるなんて、大企業の副社長の妻として失格だ。
 本当にセレブな奥様は、高級スーパーに並ぶ厳選された高品質なオーガニックの食材を選ぶんだろう。
 料理だってこんな家庭料理ではなく、テリーヌとかパテとかリエットとか、見た目も美しく華やかな料理を作っているに違いない。教室に通って、ちゃんとした料理を勉強したほうがいいだろうか。
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