両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 いや、そもそも本当のセレブならうちの母のように家政婦さんにすべてを任せて、料理も家事もしないのでは。
 でもなにもしないなんて私が耐えられないし……。
 なんて葛藤する私をよそに、翔真さんはキッチンへ向かいカレーが入った鍋のふたを開けていた。
「皿によそって、素揚げした野菜を添えればいい?」
「あ、私がやります」
 慌てて翔真さんに駆け寄ると、「いいよ」と柔らかく微笑まれた。至近距離で笑顔を見て、きゅんと心臓が跳ねる。
 仕事で疲れているのに、いやな顔ひとつせず夕食の支度を手伝ってくれる翔真さんは優しすぎる。
 かっこよくて有能で優しくて気さくなんて、私の旦那様は本当に完璧だ。天は翔真さんに二物どころか、人間に考えうるすべての魅力を注ぎ込んだんじゃないだろうか。
 私が唇を噛みしめて小さく震えていると、翔真さんは首をかしげた。
「どうかした?」
 不思議そうな視線に気付き、慌てて「い、いえっ!」と取り繕う。
「じゃあ、私はサラダの用意をしますね」
 深呼吸しながらそう言い、ダイニングテーブルに料理を並べた。
「いただきます」と手を合わせ食事をする。
「おいしい」
「お口に合ってよかったです」
「彩菜は本当に料理が上手だよな」
「ありがとうございます。でも、簡単な家庭料理しか作れなくて。教室に通ってちゃんとしたお料理を勉強したほうがいいかなと思っているんですが」
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