両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 そう言いながら、フォーマルなスーツを着た悠希がこちらに近づいてきた。
 翔真さんは艶のある黒髪だけど、悠希の髪は自然な茶色。切れ長で涼し気な目元のせいかストイックで清廉な空気をまとう翔真さんに対して、悠希は直線的な眉とたれ気味の目元が色っぽい甘い顔立ちをしている。
 ふたりとも長身でイケメンだけど、人に与える印象は正反対だ。
「彩菜、顔が強張ってるぞ」
 こちらに歩いてきた悠希が、私を見たとたん噴き出す。そんな意地悪を言う悠希にむきになって反論した。
「しょうがないでしょ! こんな状況で、緊張するなって言うほうが無理だよ」
 世界一かっこいい翔真さんが隣にいるんだから、平常心でいられるわけがない。
 半泣きになりながら「どうしよう。翔真さんがかっこよすぎて心臓が止まりそう」と悠希に小声で訴える。
「彩菜は相変わらずだな」
 私の言いたいことを理解した悠希が、横目で翔真さんを見ながら笑った。私たちのやりとりが聞こえなかった翔真さんは、不思議そうにこちらを見つめる。
 幼なじみとして育ってきた私たち三人。
 憧れの翔真さんの前では緊張してしまう私だけど、年が近い悠希に対しては自然体でいられた。お互い気を使わずになんでも言い合える関係だ。
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