両片想い政略結婚～執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない～

「そんな嫌な思い出残したくない」
「えー。楽しそうなのに」
　悠希はこちらに流し目を向け、ちょっと意地悪に口端を引き上げる。
　他人事だと思って、おもしろがるなんてひどい。頬を膨らませて睨むと、悠希は両手で私の頬をつまんだ。
「ほら、こわい顔してないで笑えよ」と無理やり口角を上げられ、眉をひそめて抵抗する。
「ちょっと、痛いよ」
「お前のほっぺたってもちもちだよな。つねりがいがある」
「もちもちって失礼すぎる。悠希はほんとデリカシーがないよね！」
「なんで？　かわいいって褒めたんだけど。触り心地がいいって最高じゃん」
「そんなこと言われてよろこぶ女の子なんていないから」
　そんな言い合いをしていると、長い腕が私の肩を抱いた。
　驚いて振り返る。翔真さんが私を悠希から引き離すように自分の胸に抱き寄せていた。
「悠希。そうやって彩菜をいじめないように」
　翔真さんはそう言い、まっすぐに悠希を見つめる。穏やかな口調だったのに、その場の空気が一瞬ぴりっと張り詰めたような気がした。
　すると悠希は両手を上げ小さく肩をすくませる。
「いじめてないって。彩菜をリラックスさせてやっただけだよ」