両片想い政略結婚～執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない～

　そう言われ、いつの間にか膝の震えが治まっているのに気が付いた。子どものころのようなやりとりをしている間に、緊張がほぐれていたようだ。
「少しは落ち着いただろ？」
　私の顔をのぞきこんだ悠希に、素直にうなずく。
「うん。少しだけ落ち着いた」
「じゃあ、会場に戻るわ」
　そう言って歩いていく悠希のうしろ姿を見送りながら、ゆっくりと息を吐き出した。完全に緊張がなくなったわけではないけれど、だいぶ平常心に戻れた。
「彩菜、大丈夫か？」
　私の顔をのぞきこんだ翔真さんに「はい」と答える。
「緊張してすみません。翔真さんにご迷惑をかけないように、翔真さんにふさわしい妻になれるように、がんばりますから」
　この披露宴は吉永自動車の後継者のお披露目でもある。
　私が大きな失敗をすれば、翔真さんの顔に泥を塗ることになってしまう。彼の妻としてふさわしい振る舞いをしなければと気合を入れる。
　そんな私を見て、翔真さんは少し複雑そうな表情を浮かべた。
「そんなふうに気負う必要はないよ。彩菜は彩菜らしく笑っていてくれれば、それでいい」
　優しい口調で言ってくれたけれど、そのとき私は突き放されたような気持になった。