両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 それは彼が大学生だったとき。
 全国から集まった猛者が二百名近く参加するトーナメントを勝ち上がり、まだ一年生だった翔真さんが個人の部で優勝した。
 会場の日本武道館は、彼の勇姿をひと目見ようと集まった観客たちでいっぱいだった。
 彼に片想いをする女の子たちが数えきれないくらい詰めかけ、熱烈な声援を送っていて、まだ中学生だった私はその熱気に圧倒された。
 翔真さんの名前を呼ぶ女の子たちは、みんな綺麗で大人びて見え、自分の幼さを思い知った。
 大学に通う彼の周りには素敵な女の子たちがこんなにたくさんいるんだ……。
 そのとき覚えた身を焦がすような感覚は、生まれて初めての嫉妬だったんだと思う。
 武道館の中央に用意された正方形の試合場。たくさんのカメラや観客の注目が集まる中、翔真さんは面をつけ、対戦相手に綺麗な一礼をしてから前に出る。
 竹刀を構えた彼には一分の隙もなく、息をのむほど美しかった。
 張り詰めた緊張感の中試合が始まる。はだしの足が床をける音。竹刀がぶつかる音。ふたりの間で交わされる打突の速さに、なにが起きているのかもわからないほどだった。
 白熱する試合を見つめ、私は両手を握りしめ祈る。
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