両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 翔真さんが一歩踏み出し竹刀が相手の面を打つと同時に、三人の審判の旗があがった。そして、それまで静まり返っていた会場が、大きな歓声に包まれた。
 会場全体がわき立つ中、翔真さんだけが冷静だった。姿勢を正し一礼をする。その行動からは相手への敬意が感じ取れた。
 ただ強いだけじゃない。優しくて誠実でまじめで。そんな彼が本当にかっこよく見えた。
 その姿は今でも鮮明に思い出せる。
 私が興奮しながら話していると、翔真さんがくすくすと笑った。
「そんな昔のことをよく覚えてるな」
 覚えているに決まってる。
 私は小さなころからずっと翔真さんに憧れて来た。だけどあの瞬間、憧れは恋になった。
 少しでも大人っぽく見られたいと意識しすぎて、翔真さんの前ではぎこちない態度をとってしまうようになったのも、たぶんそのころから。
 そしてそれから十三年。
 私は今でも翔真さんに片想いをし続けている。
 でもこの気持ちを伝えるわけにはいかない。私が彼を好きだと知ったら、優しい彼に気を使わせてしまうから。
 そんなことを考えていると長い指が私の頬に触れた。翔真さんの整った顔が近づいてくる。
 あ。これからキスをされるんだ。そう気付いて、緊張で体が硬直した。
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