両片想い政略結婚～執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない～

　柔らかそうな茶色の髪に、顔を隠すようにかけた薄く色の入った丸眼鏡。その奥にあるのは甘い印象の整った顔。
　この人は……。と一瞬考えてから驚いて声を上げた。
「悠希！」
　名前を呼ばれた悠希は「バカ。声がでかいって」と私の口を押さえた。
「会社のそばで名前を呼んだら、帰国してるってバレるだろ」
「バレるって……。内緒で日本に帰って来たの？」
　吉永自動車の専務を務める悠希は、一年ほど前から北米支社を拠点にして働いている。
　吉永自動車のブランドは海外でも強い人気を誇り、北米での販売台数は国内販売台数の倍以上だ。
　そんな重要な北米支社で働く悠希は翔真さんに負けないくらい忙しいはずなのに、どうしてこんなところにいるんだろう。
　不思議に思う私に、悠希は「急にまとまった休みが取れたから帰って来たんだ」と言いながら笑う。
「眼鏡なんてかけてるから、一瞬だれかわからなくてびっくりした」
「知り合いに会うと面倒だから、軽い変装。ナンパかと思った？」
　私をからかう悠希に「まさか。私をナンパする人なんていないから」と苦笑した。
「そうか？　広報で働いていたら、社外の男とも知り合うだろ。普通に声かけられない？」
「そんなこと一度もないよ。それにほら、ちゃんと指輪をしてるし」