両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
「そっか。もうそんなに経つんですね……」
 タビちゃんは吉永家のお庭で生まれたもと野良猫だ。体が弱かったせいか生まれてすぐに母猫とはぐれ、小さな声で鳴いているところを私と翔真さんで保護した。
 そのときのことを思い出し、懐かしい気持ちになる。
「そうだ。来る途中でスイーツを買って来たんです」
 翔真さんがそう言って、お義母様にケーキが入った箱を手渡す。
「あら、うれしい。見てもいいかしら?」
 お義母様は待ちきれない様子で箱の中をのぞき、「綺麗なケーキね!」と声を弾ませる。
「彩菜が選んでくれたんですよ」
「さすが彩菜ちゃん。センスがあるわ」
 お義母様に褒められ、はにかみながら首を横に振る。
「そんな。前に翔真さんがお土産にこのお店のケーキを買ってきてくれたんです」
 私の言葉を聞いて、翔真さんが笑顔を浮かべた。
「それで、手土産はこの店がいいって提案したんだ? そんなことをちゃんと覚えててくれたんだな」
「覚えてますよ。翔真さんが買ってきてくれたケーキがとても綺麗でおいしかったし、うれしかったので」
 そんなやりとりをしていると、見ていた母とお義母様が「本当に仲良し夫婦ね」と笑い合う。
「それから、よかったらこれも」と翔真さんがお義父様に日本酒を渡した。
< 93 / 191 >

この作品をシェア

pagetop