両片想い政略結婚～執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない～

「強がらなくてもいいわよ。ラブラブなふたりを見ているうちに、悠希も結婚したくなったんでしょう？」
「いや、ちが……」
「それはよかった。実はあちこちから悠希に結婚の話が来ているんだ。悠希ももうすぐ三十歳だし本気で結婚を考える時期だよな」
「私の知り合いにもいい子がいるわよ。銀行の頭取の娘さんでね、結婚に興味があるなら一度会ってみない？」
「悠希くん、結婚はいいもんだよ。アメリカでひとり暮らしをしていたら、余計に家庭の温かさが恋しくなるだろう？」
　悠希の戸惑いをよそに、その場はどんどん盛り上がる。
「善は急げと言うし、さっそくお見合いをセッティングしようか」
「どんな女性がいいかしら。わくわくしてきたわ」
「悠希くんなら、落ち着いた年上の女性がいいかも」
「いや、彼は意外と面倒見がいいから、年下のほうがいいかもしれないよ」
　口々に話す両親たちに圧倒されていると、悠希が椅子から立ち上がった。
「結婚するなんてひと言も言ってないのに、勝手に話を進めるなよ」
　あきれた口調で言い、リビングの出口に向かって歩き出す。
「悠希！」
　私が慌てて名前を呼ぶと、悠希はこちらを振り返り「タバコ」とだけ言って出て行った。
「あらあら。怒らせちゃったわ」
「ごめんなさい。つい楽しくなっちゃって」