両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
「それに、周りが急かさなくても、悠希なら自分の将来は自分で決めると思います」
 翔真さんの言葉に「そうよね」と両親たちが表情を明るくしたとき、ポケットに入れていたスマホが震えた。
 なんだろうと思い画面を見る。悠希から短いメッセージが届いていた。
「どうかした?」
 翔真さんに問いかけられ、「悠希から『ライターない?』ってメッセージが」と画面を見せる。タバコを吸いたいけどライターがないから持って来いという意味だろう。
 用件だけの一文を読んだ翔真さんは、あきれたように苦笑する。
「彩菜ちゃん。悪いけど、様子を見て来てくれる? きっとお庭のお散歩でもしてると思うから」
 お義母様から頼まれ、ライターを預かった私は庭に出た。
 さっきまでは晴れていたのに、空は灰色の雲で覆われていた。今にも雨が降り出しそうだ。
 手入れの行き届いたお庭の小道に沿ってジャスミンの木が植えられていた。その白い花に見とれながら歩いていると、木立の奥にある洋風の東屋に悠希の姿を見つけた。
 彼はベンチに腰掛け、のんびりと庭の緑を眺めていた。足音に気付きこちらを振り返る。
「お、来たか」
 悪びれもせず笑った悠希に、顔をしかめながら近づいた。
「私は小間使いじゃないんですけど」
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