魔法の手~上司の彼には大きな秘密がありました!身も心も癒されたい~
「主任の相原です」
「チーフの花凜です」

こちらの挨拶と名刺交換を終えて互いに席に座る。

「ブロック営業担当の小岩井(こいわい)です。そして、」

「真宮 梓乃(まみやしの)です」

白のフルール・ド・リスのセットアップ。
胸元には花びらに見立てたフルール・ド・リスを表すアヤメの社章が光り輝いてる。

曽祖母にフランス人の血を受け継いだ彼女の瞳はブルーグレーで髪色も自然と明るくそれをカッチリと夜会巻きのようにセットした彼女は“出来る女”に見えた。

「宜しくお願い致します」

アヤメの花を様式化した社章とブランド名はフルール・ド・リスをフランスに関わると表に出した感じだ。

(まさか常務自らお出ましとは…)

「今回新規店舗として」

メールでみた内容より深く書かれた書類を小岩井さんが私と相原主任に渡して説明をしてくれる。

書類を見る振りをして目線を外し彼女を見ると真剣な面持ちで内容確認と私達の渡した書類に目を通してる。

透き通るような白い肌に長いまつ毛。
真っ赤な口紅が薔薇のように見える。

(この人が元カノ…私と雲泥の差)

「何かご質問ありますか?」

小岩井さんからの問いに私はおずおずと手を上げた。

「なぜ西館なんですか?東館に店舗ありますよね」

率直過ぎた?
でも西館どころか蘇芳社員が思った事を口にした。

「昨年、東館に出店をしてお客様から口々に好評を頂いたのが一番ですね。それと…」

綺麗な唇がゆっくり動いて、

「藤堂さんを信頼しての事でもありますね」

「うちの藤堂を、ですか?」

「詳しくは言えないけど」

相原主任から上着の裾をツンと引っ張られてそれ以上突っ込むのは止めた。

「では来年から宜しくお願い致します」

主任と私は彼らが乗り込んだエレベーターが閉まると同時に「はぁ…」と息を吐いた。

「常務がわざわざ来るとはな」

「本当に驚きましたね」

気を張り過ぎて身体はぐったりと頭の思考回路はパッタリ停止。

「何かありそうな感じでしたよね?」

「それは本人に聞けば良い」

相原主任にポンと肩を叩かれて丸まってた背中をピンと伸ばした。

「契約するわけだし来年は話題性あるぞ」

(主任、今までぐったりしてたのに)

来年の売上達成予想に軽くガッツポーズをしてエレベーターの上ボタンを力強く押してニヤリと笑った。



「結局それも謎のまま?」

「うん。何か疑ってる自分が女々しくて嫌になって聞くのやめた」

仕事終わりに桜子から連絡がありBARに集合した。
桜子行きつけのBARでお互いチーフになるまではよく来たお店で昔は朝まで飲んでた。

「マスター!美味しい生もう1杯」

「円生も桜子もサーバーに口つけてろ」

「酷いマスター」
「樽ごと全部飲むからね〜」

もう何杯目か分からない生ビールと久しぶりの桜子との会話は隠し事なく話が出来て楽しい。

「まあ契約は無事に終わったから良しとする」

過去は誰でもある。
そこを通過して今は私と共に過ごしてる。
それならそれで良い。

「円生は本当大人だね〜」

「アンタもでしょ?あの副社長のワガママに付き合ってるんだから」

「だね」と笑い合って何度目か分からない乾杯をする。

「あの美人の藍沢ちゃん最近見ないな〜」

美人に目がないマスターに二人で睨むとオーダーの入ったお酒を黙って作り始めた。

「チーフ大丈夫かな?」

藍沢チーフは今日から休暇に入った。
理由は色々で私達はショックではある。

繁忙期はどの館も恐ろしく忙しい。
毎年の事だからお互いに協力し合って切り抜けて行く。

「今までのお礼も兼ねて東館を助けなきゃね」

私達チーフにとって藍沢チーフは新人時代からお世話になりチーフの仕事も教えてくれて助けてくれた人。

「繁忙期がなんだ!!飲むよ〜!」

桜子の声にマスターは苦笑いをしながらも優しい目を向けてくれた。
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