魔法の手~上司の彼には大きな秘密がありました!身も心も癒されたい~
エレベーターが降りて来るまで携帯で再来週の予約を考える。

(この日は遅いし…やっぱり休み前かな)

仕事が忙しいだけでプライベートの予定は無い。
来週に控えた誕生日…予定?あるわけない。

音と共に開いたドアに先に乗ってた人に頭を下げつつ脇に寄り下を向いた。

すぐ下の階で一人降りて次の階で誰か乗って来る。

「お疲れ。残業か?」

聞き覚えのある甘い声

「お疲れ様です。まあそんな感じです」

不自然さを出さないようにシレッと挨拶をして降りるエレベーターの階数ランプを見つめた。

しーんとしたエレベーターの中。
息苦しい…
何か話した方が良い?
こんな静かな場所で何話す?

エレベーターの1階を告げるアナウンスに次々と降りて行きその流れに私も乗った。

「先に行くなよ。方向同じだろ」

クスクス笑って背後から右隣を歩く。

「同じだけど。…まあ今日くらいは?」

何でこうも素直に喜べない?
本当にそっちのスキルは無いに等しい!

「ちょっと寄ってかないか?」

駅までの道にある居酒屋を指さしつつ「行くぞ」と私の腕を掴み店の暖簾を捲りあげた。


「全体的に見ても上半期は良かったみたいだな」

仕事の話をおつまみのように話す彼。
ただの同僚感満載だ。
そりゃ人の物に私だって手を出す気は無い。
そのくらいの倫理観はある!

でも…

(カッコ良すぎる…)

生ビールから日本酒へ。
そして本日お勧めの関あじを口に運ぶ。

チラチラ見えるあの左手さえ無ければ少しは素直な気持ちになれたのに…

ある意味あれは魔除けのお守りだ。
自分が魔物になりたいと思わないけど細くて長い指にキラリと光る指輪は餌にもなりうる。

…花と蜜
…熊と蜂蜜
…熊と鮭

いやいや脳内から熊は省こう。

「何か考え事か?」

「別に」

「お前のそれ口癖かよ」

余計な事を言っちゃいそうでつい「別に」が出てしまう。

「べっ…口癖じゃないわよ」

彼は上司と言っても部署もエリアも違う。
施術師と患者の関係になって2年もなれば私達に敬語は無い。

「そう言えば来週誕生日だろ?」

「何で知ってんのよ」

咄嗟に出た言葉に自分で気付いた。

保険証だ。
カルテを自分で見れるわけでは無いけど誕生日くらい書いてあるだろう。

「じいさんが誕生月に来た患者さんにプレゼントをするようにしたらしい。カルテを開くとほら」

私のカルテの画像と花丸の画像。

「こうやって最近管理してるって」

誕生月なのはこの間バレてたと言う事。

「何が欲しい?」
「いや、何も…」

何も?
本当は課長が欲しい!
言えるわけないです…
倫理観大事!
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