願いをつないで、あの日の僕らに会いに行く
「これから高校生活を送るにあたって気をつけるべきことや、三年間のざっくりとしたスケジュールが、今配ったプリントに書かれているから目を通しておくように」
そう言ったのは、高校一年生のときに私たちのクラス担任だった榎里先生だ。
クマみたいに身体の大きな若い男の先生だけど、優しくて面白いから生徒たちに人気があった。
「二○一九年、四月……」
たった今配られたプリントの右上に書かれている日付を、自分にしか聞こえない声で口にした。
二○一九年といえば、私が海凪高校に入学した年だ。
つまり、これが夢ではなく現実なのだとしたら、私は高校一年生の四月にタイムスリップしたということなのかもしれない。
「いやいや、あり得ないでしょ」
思わずつぶやいてしまってから、つい先ほど高槻くんに言われた言葉を思い出して口をつぐんだ。
また、ひとり言がエグいと言われてしまう。
とはいえ、こんなのうろたえるなというほうが無理だ。
そもそも、仮に私の予想どおりだとしたら、どうして私はタイムスリップなんてしてしまったのだろう。
頭を抱えた私は、すぐに〝あること〟を思い出して目を見開いた。
現代――つまりタイムスリップ前の二○二三年で、私は〝あること〟をした。
「願い事と、スウィッシュシュートだ……」
また、つい口に出してしまった。そのせいで、前の席からは舌打ちが聞こえた。
背中を丸めて小さくなった私は、そのときのことをあらためて頭の中に思い浮かべた。
海凪高校には、フリースローラインに立って願い事を口にしたあと、スウィッシュシュートを決めると口にした願いが叶うという伝説がある。
そして私は、『もう一度、高槻くんに会いたい』と願い事を口にして、見事な偶然でスウィッシュシュートを決めた。