願いをつないで、あの日の僕らに会いに行く
 

「はぁ……息苦しかった」


深呼吸をすると潮の香りが身体に染みて、心が解放感で満たされる。

今年の五月にコロナが五類になって以降、マスクをしない人はずいぶん増えた。

だけど私は電車内やお店の中、人の多い場所ではいまだにマスクをしないと落ち着かなかった。

いったい、いつになったらマスクを完全に手放せる日がくるのだろう。

なんて、つい後ろ向きに考えてしまうけれど。

目の前に広がる海で海水浴を楽しむ人たちを見たら、世界が〝コロナ前の生活〟を取り戻すために前進していることを実感した。


「あ……」


そのとき、肩にかけたカバンの中でスマホが震えた。

慌てて取り出して画面を見ると、【河野 智恵理(こうの ちえり)】という親友の名前が表示されていた。


「はい、もしもし」

《六花~。今、どのあたり?》


電話に出ると、鈴を転がすような声が聞こえた。

だけどその声は、普段と比べると元気がない。

 
< 5 / 30 >

この作品をシェア

pagetop