クリスマスイブ、初恋の君が目の前に。
高校2年生の冬。
住んでいる街の近くにある小さな街の雪景色を撮りたくなって、朝から電車に乗った。
お客さんは本を読んでいる男の人と小さな女の子とお母さん、そして私だけ。電車の窓から見える外の景色は、真っ白。
雪は止んでいた。
30分ぐらい経つと街に着いた。
電車から降りると視界びっしりになる程に雪が沢山降っていた。
――天気予報、ずっと曇りじゃなかったっけ?
駅のプラットホームの屋根の下で雪をしのごうとした。でもここの屋根は小さくて、ほとんどの雪は風に乗り私の元へ流れてくる。
どうしようかな?と考えながらなんとなく向かいのホームを眺めていると、懐かしい彼の顔が、降っている雪の隙間から一瞬ちらりと見えた気がした。懐かしいと言っても中学校は同じだったからそんなに懐かしくはないのかもしれない。それに、しょっちゅう彼の姿が私の頭の中に浮かんでいたし。
彼の名前は平野奏汰くん。
彼と知り合ったのは幼稚園だった。
小学校卒業するまでは遊んだり話したりしていたのだけど、中学に入ると自然と話さなくなっていった。そして高校は別々のところへ。
実は彼、平野くんは私の初恋の人。
好みの漫画が一緒で、私の好きそうな漫画を見つけると教えてくれたり。他にも色々私のことを気にかけてくれたりして、すごく優しかった。そして名前をいっぱい呼んでくれた。
小春ちゃん、小春ちゃんって……。
名前を呼ばれるだけで嬉しかったな。いつの間にか苗字で呼ばれるようになっていったけれど。
一瞬見えただけでもう見えないから、気のせいだったのかな?
とりあえず、駅の近くにある喫茶店で雪が止むまで待っていようかなと思い移動し始めると、急に雪が当たらなくなって、同時にふわっと気配がした。
私の頭の上には紺色の傘。
横にはなんと、彼がいた。
「びっくりしたー」
「七瀬さん、久しぶり」
彼はすごく身長が伸びていた。どのくらいかというと、見上げないと彼と目が合わせられないくらい。昔は同じくらいだったのにな。
同じ傘の下にいて、こんなに近距離だからか、ドキドキしてきた。
でもそれを悟られないように、一生懸命に隠した。
「やっぱり向かいのホームにいたの、平野くんだったんだ」
「さっき俺たち一瞬、目が合ったよね?」
「合った?」
「うん、合ったよ」
良かった。
心臓の音は早いままだけど、普通に話せてる。
「平野くんはここの駅に用事あったの?」
「あ、うん。ばあちゃんの家に泊まってて、今から帰るところなんだ。七瀬さんは?」
「私は街の写真を撮りに来たんだけど。雪がすごいから、とりあえず近くの喫茶店で雪が止むの待とうかなって思って」
喫茶店に着いた。
喫茶店に着くまでずっと傘をさしてくれていた平野くん。
「じゃ、七瀬さん。バイバイ」
「傘さしてここまで送ってくれてありがとう。バイバイ!」
このまま離れるのはなんだか寂しかった。けれど帰りの電車に乗ろうとする平野くんを引き止めるわけにはいかないし、でも……。
「七瀬さん」
「平野くん」
私たちはお互いの名前を同時に呼びあった。
「七瀬さん、どうしたの?」
「いや、平野くんこそ」
「……もう少し七瀬さんと一緒にいたいなと思って」
彼は真剣な表情でそう言った。
私と一緒にいたい?
深い意味はないんだろうけど、ちょっとだけ何かを期待しちゃう自分がいた。
「じゃあ私と一緒にこのお店に入る?」
「そうしよっかな」
私たちは一緒に小さな喫茶店の中へ。
入口でふたりはそれぞれ同じ色の白いコートを脱ぎ、雪をはらった。
中は暖かくて、甘い香りがした。
お客さんは誰もいなかった。
「お好きな席へどうぞ」とお店のお姉さんに言われて、どこに座ろうか迷っていると彼が「窓側に座ろっか」と決めてくれた。
「甘くて温かいミルクティーで」
「私も」
温かいミルクティーを飲みながら外を眺めた。雪が完全に止んでいる。
「さっきの雪すごかったね」
「そうだな」
さっき雪があんなに降っていなければ、多分、今こうして喫茶店に来ていなかった。そして彼とも一緒にいなかったと思う。
「このミルクティー、甘くて美味しい」
「な、美味い。七瀬さん、相変わらず甘いの好きなんだな」
甘いのが好きなこと、覚えていてくれて嬉しいな。
「うん、好きだよ! 平野くんは甘いの苦手じゃなかったっけ?」
「いや、最近好きになってさぁ。ケーキとかも……」
話をしている時、テーブルに置いといたスマホが明るくなった。お母さんからだ。
『お土産、駅で売ってるクッキー買ってきて欲しいな』
『分かったよ! バニラとチョコと紅茶味全部買うね!』
返事を終えたタイミングで「誰?」と平野くんが聞いてきた。
「お母さん。お土産買ってきてって……」
「……彼氏かと思った」
「私、彼氏いないよ」
「そっか、良かった」
――えっ? 今、良かったって言った?
どういう意味で『良かった』って言ったのか、気になった。ひとつひとつの彼の言動が気になる。
「平野くんは、彼女いるの?」
「いないよ」
いないと聞いて、ほっとした。
ほっとしたのは、彼のことが好きって気持ちがまだ私の中に残っているからなのかな。うん、残ってる。再会した時に自分の気持ちがはっきりと分かった気がした。目の前に彼が現れた時の心の揺れ具合はすごかった。
「平野くんは好きな人いたりするの?」
「……いないよ。七瀬さんは?」
「私は…いないかな? 出会いがなくて」
嘘ついちゃった。
本当は目の前にいる。
――私は平野くんのことが、今も好き。
お互いの恋話はそれで終わり、中学の同級生の話とか懐かしい話を中心に色々な話をした。あっという間に時間は過ぎていった。空気感が昔の仲良かったころに戻った感じだった。
「平野くん、次の電車の時間、そろそろかな?」
「……そうだな」
お会計を済ませ、外に出た。
もっと一緒にいたいな――。
「小春ちゃん、ここのイルミネーション見たことある?」
ふいに下の名前で呼んでくれてドキっとした。今日の私の心臓、いっぱいドキドキしてて忙しい。
「見たことないなぁ」
「昨日、ばあちゃんと見たんだけど綺麗だった」
「いいなぁ! この街並みにイルミネーション、雰囲気あるんだろうなぁ……写真も撮りたい」
「今日は何時までに帰らないといけないとか、あるの?」
「特にないかな。遅くなりすぎなければ大丈夫」
「じゃあ、イルミネーション点灯するまでいたら?」
「どうしよっかな……」
「一緒にイルミネーション見よ?」
一緒にってことは、それまでずっと一緒にいられるのかな?
私は「うん」と頷いた。
お昼はパスタのお店で一緒に食べて、その後は街の写真を撮ったりして。予定よりも長い時間いることになったから、街から少し離れた雪景色が綺麗だと噂の場所にも行くことが出来た。
まるでデートをしているみたいで。イルミネーションの時間まで彼と一緒にいられたから、すごく幸せだった。
イルミネーションの点灯は17時から。ちょうどその時間に駅前に着いた。この街でのメインのイルミネーションはここのクリスマスツリー。
ツリーの前で彼と一緒に点灯されるのを待った。
心の中でカウントダウンが始まる
5、4、3、2、1……。
ついに点灯した。
雪と夜空の中で咲いていた緑色のクリスマスツリーはカラフルに輝き出した。
「綺麗だね、見れて良かった。教えてくれて、ありがとう」
そう言いながら彼を見ると、彼と目が合った。微笑み合うと再びツリーに目をやった。
ツリーを見つめていると、彼が私の左手を握ってきた。ちらっと横目で繋がっているふたりの手を見る。
手袋越しの感触だけど、手の暖かさもほんのり分かる。
ドキドキと安心が混ざったような、不思議な気持ちになった。
「今日会えて、本当に良かった」
彼はツリーを眺めながらそう言った。
私は彼を見つめた。
「私も……。中学卒業してから一回も地元ですれ違うこともなかったのに、ここで会えたのってすごい偶然だよね」
彼がこっちを見て、目が合う。
「朝、駅で小春ちゃん見かけた時、めちゃくちゃ急いで小春ちゃんのとこに行ったんだ」
「急いで…そうだったんだ……」
朝、ふわっと現れた平野くん。
急いで私のところに来てくれていたなんて、全く気がつかなかった。
急いで来てくれたんだ、私のところに――。
「小春ちゃんのところに行って話しかけないと、これからも後悔し続けるのかな?って思ったから」
「これからも?」
「実は、中学卒業してから小春ちゃんとすれ違った時があって……」
「えっ? いつ?」
「ちょうど1年前くらいかな? 地元の駅前のベンチに小春ちゃんが座ってて。話しかけようかしばらく迷ってたら、彼氏らしき人が来て一緒にベンチに座って楽しそうに話していたから、通り過ぎた」
「ちょっと待って? 通り過ぎたとか……っていうか、私、恋人いたことないよ。もしかして、男の子って弟かな……」
「弟……彼氏じゃなかったんだ。そっか、そうだったんだ……」
彼は深いため息をついた。
「平野くんは、誰かとお付き合いしたことあるの?」
「俺も恋人いたことないよ」
「意外だなぁ。平野くんモテそうだから、誰かと付き合ったことありそうだなって思ってた」
「……だって俺は、小春ちゃんのことがずっと好きだったから。好きな人いないとか、さっき嘘ついちゃったけど」
信じられない言葉。
「それも、嘘?」
「ううん、好きなのは本当」
驚きすぎて言葉が何も出てこない。
頭の中がぼんやりしてきて何も考えられなくなった。目の前のイルミネーションの光もどんどんぼやけてくる。
彼は私と繋いでいた手を離すと、鞄の中をあさりだした。
「急にこんなこと言ってごめん。焦るよね……これ、ティッシュ」
私の目から溢れそうな涙。それを拭くためのティッシュをくれた。
「なんかこっちこそごめんね。ずっとずっと片想いだと思っていたから……」
「片想い?」
「そう、私だけがずっと好きだったと思っていて……」
「小春ちゃんが、俺のこと?」
彼はすごく驚いた様子だった。
「うん。ずっとずっと好きだったんだよ! 小さい頃からずっと」
秘めていた気持ちを伝えると、涙も溢れてきた。
「小春ちゃん……ずっと、会いたかった」
彼は私の手をさっきよりも強く握ってくれた。
私もぎゅっと、強く握り返した。
しばらくツリーのイルミネーションを眺めてから、街に浮かぶ綺麗で静かなイルミネーションも見て回った。
見終わると、誰もいない駅のプラットホームで帰りの電車が来るのをふたりで待った。
ふわり優しい雪が降ってきた。
「小春ちゃん、来年も一緒にイルミネーション見に来たいな」
「うん。私も一緒にまた見たいな」
そう言って、私たちは微笑みあった。
。°.。❅𓈒◌°.。゜.❅𓈒◌。・。❅𓈒◌。。❅𓈒◌°.。゜.❅𓈒◌。・。。❅𓈒◌°.。゜.、。
電車が来るまでずっと平野くんと手を繋いでいて、心の中も暖かかった。
住んでいる街の近くにある小さな街の雪景色を撮りたくなって、朝から電車に乗った。
お客さんは本を読んでいる男の人と小さな女の子とお母さん、そして私だけ。電車の窓から見える外の景色は、真っ白。
雪は止んでいた。
30分ぐらい経つと街に着いた。
電車から降りると視界びっしりになる程に雪が沢山降っていた。
――天気予報、ずっと曇りじゃなかったっけ?
駅のプラットホームの屋根の下で雪をしのごうとした。でもここの屋根は小さくて、ほとんどの雪は風に乗り私の元へ流れてくる。
どうしようかな?と考えながらなんとなく向かいのホームを眺めていると、懐かしい彼の顔が、降っている雪の隙間から一瞬ちらりと見えた気がした。懐かしいと言っても中学校は同じだったからそんなに懐かしくはないのかもしれない。それに、しょっちゅう彼の姿が私の頭の中に浮かんでいたし。
彼の名前は平野奏汰くん。
彼と知り合ったのは幼稚園だった。
小学校卒業するまでは遊んだり話したりしていたのだけど、中学に入ると自然と話さなくなっていった。そして高校は別々のところへ。
実は彼、平野くんは私の初恋の人。
好みの漫画が一緒で、私の好きそうな漫画を見つけると教えてくれたり。他にも色々私のことを気にかけてくれたりして、すごく優しかった。そして名前をいっぱい呼んでくれた。
小春ちゃん、小春ちゃんって……。
名前を呼ばれるだけで嬉しかったな。いつの間にか苗字で呼ばれるようになっていったけれど。
一瞬見えただけでもう見えないから、気のせいだったのかな?
とりあえず、駅の近くにある喫茶店で雪が止むまで待っていようかなと思い移動し始めると、急に雪が当たらなくなって、同時にふわっと気配がした。
私の頭の上には紺色の傘。
横にはなんと、彼がいた。
「びっくりしたー」
「七瀬さん、久しぶり」
彼はすごく身長が伸びていた。どのくらいかというと、見上げないと彼と目が合わせられないくらい。昔は同じくらいだったのにな。
同じ傘の下にいて、こんなに近距離だからか、ドキドキしてきた。
でもそれを悟られないように、一生懸命に隠した。
「やっぱり向かいのホームにいたの、平野くんだったんだ」
「さっき俺たち一瞬、目が合ったよね?」
「合った?」
「うん、合ったよ」
良かった。
心臓の音は早いままだけど、普通に話せてる。
「平野くんはここの駅に用事あったの?」
「あ、うん。ばあちゃんの家に泊まってて、今から帰るところなんだ。七瀬さんは?」
「私は街の写真を撮りに来たんだけど。雪がすごいから、とりあえず近くの喫茶店で雪が止むの待とうかなって思って」
喫茶店に着いた。
喫茶店に着くまでずっと傘をさしてくれていた平野くん。
「じゃ、七瀬さん。バイバイ」
「傘さしてここまで送ってくれてありがとう。バイバイ!」
このまま離れるのはなんだか寂しかった。けれど帰りの電車に乗ろうとする平野くんを引き止めるわけにはいかないし、でも……。
「七瀬さん」
「平野くん」
私たちはお互いの名前を同時に呼びあった。
「七瀬さん、どうしたの?」
「いや、平野くんこそ」
「……もう少し七瀬さんと一緒にいたいなと思って」
彼は真剣な表情でそう言った。
私と一緒にいたい?
深い意味はないんだろうけど、ちょっとだけ何かを期待しちゃう自分がいた。
「じゃあ私と一緒にこのお店に入る?」
「そうしよっかな」
私たちは一緒に小さな喫茶店の中へ。
入口でふたりはそれぞれ同じ色の白いコートを脱ぎ、雪をはらった。
中は暖かくて、甘い香りがした。
お客さんは誰もいなかった。
「お好きな席へどうぞ」とお店のお姉さんに言われて、どこに座ろうか迷っていると彼が「窓側に座ろっか」と決めてくれた。
「甘くて温かいミルクティーで」
「私も」
温かいミルクティーを飲みながら外を眺めた。雪が完全に止んでいる。
「さっきの雪すごかったね」
「そうだな」
さっき雪があんなに降っていなければ、多分、今こうして喫茶店に来ていなかった。そして彼とも一緒にいなかったと思う。
「このミルクティー、甘くて美味しい」
「な、美味い。七瀬さん、相変わらず甘いの好きなんだな」
甘いのが好きなこと、覚えていてくれて嬉しいな。
「うん、好きだよ! 平野くんは甘いの苦手じゃなかったっけ?」
「いや、最近好きになってさぁ。ケーキとかも……」
話をしている時、テーブルに置いといたスマホが明るくなった。お母さんからだ。
『お土産、駅で売ってるクッキー買ってきて欲しいな』
『分かったよ! バニラとチョコと紅茶味全部買うね!』
返事を終えたタイミングで「誰?」と平野くんが聞いてきた。
「お母さん。お土産買ってきてって……」
「……彼氏かと思った」
「私、彼氏いないよ」
「そっか、良かった」
――えっ? 今、良かったって言った?
どういう意味で『良かった』って言ったのか、気になった。ひとつひとつの彼の言動が気になる。
「平野くんは、彼女いるの?」
「いないよ」
いないと聞いて、ほっとした。
ほっとしたのは、彼のことが好きって気持ちがまだ私の中に残っているからなのかな。うん、残ってる。再会した時に自分の気持ちがはっきりと分かった気がした。目の前に彼が現れた時の心の揺れ具合はすごかった。
「平野くんは好きな人いたりするの?」
「……いないよ。七瀬さんは?」
「私は…いないかな? 出会いがなくて」
嘘ついちゃった。
本当は目の前にいる。
――私は平野くんのことが、今も好き。
お互いの恋話はそれで終わり、中学の同級生の話とか懐かしい話を中心に色々な話をした。あっという間に時間は過ぎていった。空気感が昔の仲良かったころに戻った感じだった。
「平野くん、次の電車の時間、そろそろかな?」
「……そうだな」
お会計を済ませ、外に出た。
もっと一緒にいたいな――。
「小春ちゃん、ここのイルミネーション見たことある?」
ふいに下の名前で呼んでくれてドキっとした。今日の私の心臓、いっぱいドキドキしてて忙しい。
「見たことないなぁ」
「昨日、ばあちゃんと見たんだけど綺麗だった」
「いいなぁ! この街並みにイルミネーション、雰囲気あるんだろうなぁ……写真も撮りたい」
「今日は何時までに帰らないといけないとか、あるの?」
「特にないかな。遅くなりすぎなければ大丈夫」
「じゃあ、イルミネーション点灯するまでいたら?」
「どうしよっかな……」
「一緒にイルミネーション見よ?」
一緒にってことは、それまでずっと一緒にいられるのかな?
私は「うん」と頷いた。
お昼はパスタのお店で一緒に食べて、その後は街の写真を撮ったりして。予定よりも長い時間いることになったから、街から少し離れた雪景色が綺麗だと噂の場所にも行くことが出来た。
まるでデートをしているみたいで。イルミネーションの時間まで彼と一緒にいられたから、すごく幸せだった。
イルミネーションの点灯は17時から。ちょうどその時間に駅前に着いた。この街でのメインのイルミネーションはここのクリスマスツリー。
ツリーの前で彼と一緒に点灯されるのを待った。
心の中でカウントダウンが始まる
5、4、3、2、1……。
ついに点灯した。
雪と夜空の中で咲いていた緑色のクリスマスツリーはカラフルに輝き出した。
「綺麗だね、見れて良かった。教えてくれて、ありがとう」
そう言いながら彼を見ると、彼と目が合った。微笑み合うと再びツリーに目をやった。
ツリーを見つめていると、彼が私の左手を握ってきた。ちらっと横目で繋がっているふたりの手を見る。
手袋越しの感触だけど、手の暖かさもほんのり分かる。
ドキドキと安心が混ざったような、不思議な気持ちになった。
「今日会えて、本当に良かった」
彼はツリーを眺めながらそう言った。
私は彼を見つめた。
「私も……。中学卒業してから一回も地元ですれ違うこともなかったのに、ここで会えたのってすごい偶然だよね」
彼がこっちを見て、目が合う。
「朝、駅で小春ちゃん見かけた時、めちゃくちゃ急いで小春ちゃんのとこに行ったんだ」
「急いで…そうだったんだ……」
朝、ふわっと現れた平野くん。
急いで私のところに来てくれていたなんて、全く気がつかなかった。
急いで来てくれたんだ、私のところに――。
「小春ちゃんのところに行って話しかけないと、これからも後悔し続けるのかな?って思ったから」
「これからも?」
「実は、中学卒業してから小春ちゃんとすれ違った時があって……」
「えっ? いつ?」
「ちょうど1年前くらいかな? 地元の駅前のベンチに小春ちゃんが座ってて。話しかけようかしばらく迷ってたら、彼氏らしき人が来て一緒にベンチに座って楽しそうに話していたから、通り過ぎた」
「ちょっと待って? 通り過ぎたとか……っていうか、私、恋人いたことないよ。もしかして、男の子って弟かな……」
「弟……彼氏じゃなかったんだ。そっか、そうだったんだ……」
彼は深いため息をついた。
「平野くんは、誰かとお付き合いしたことあるの?」
「俺も恋人いたことないよ」
「意外だなぁ。平野くんモテそうだから、誰かと付き合ったことありそうだなって思ってた」
「……だって俺は、小春ちゃんのことがずっと好きだったから。好きな人いないとか、さっき嘘ついちゃったけど」
信じられない言葉。
「それも、嘘?」
「ううん、好きなのは本当」
驚きすぎて言葉が何も出てこない。
頭の中がぼんやりしてきて何も考えられなくなった。目の前のイルミネーションの光もどんどんぼやけてくる。
彼は私と繋いでいた手を離すと、鞄の中をあさりだした。
「急にこんなこと言ってごめん。焦るよね……これ、ティッシュ」
私の目から溢れそうな涙。それを拭くためのティッシュをくれた。
「なんかこっちこそごめんね。ずっとずっと片想いだと思っていたから……」
「片想い?」
「そう、私だけがずっと好きだったと思っていて……」
「小春ちゃんが、俺のこと?」
彼はすごく驚いた様子だった。
「うん。ずっとずっと好きだったんだよ! 小さい頃からずっと」
秘めていた気持ちを伝えると、涙も溢れてきた。
「小春ちゃん……ずっと、会いたかった」
彼は私の手をさっきよりも強く握ってくれた。
私もぎゅっと、強く握り返した。
しばらくツリーのイルミネーションを眺めてから、街に浮かぶ綺麗で静かなイルミネーションも見て回った。
見終わると、誰もいない駅のプラットホームで帰りの電車が来るのをふたりで待った。
ふわり優しい雪が降ってきた。
「小春ちゃん、来年も一緒にイルミネーション見に来たいな」
「うん。私も一緒にまた見たいな」
そう言って、私たちは微笑みあった。
。°.。❅𓈒◌°.。゜.❅𓈒◌。・。❅𓈒◌。。❅𓈒◌°.。゜.❅𓈒◌。・。。❅𓈒◌°.。゜.、。
電車が来るまでずっと平野くんと手を繋いでいて、心の中も暖かかった。