鏡と夜桜と前世の恋
「はぁ、はぁ… 」
これで良かったのよ、これで…
気崩れた着物を整え、待たせていた付き人の男のところに戻った雪美はそのまま遊郭に戻る。
「… 女が生きる道はここしかない訳ではないですよ」
遊郭へ戻る帰り道… 雪美の頬を伝う、乾いた涙の跡を見た付き人の男はそれ以上何も言わず微笑む。
許されるならそうしたい。何よ、人の気持ちも知らないで… この人は一体私に何が言いたいの?
「… 貴方、いつの日からか私の付き人になったけど一体誰なの!?」
「やっと聞いてくれましたね。ゆりねから頼まれ、雪美様のそばにと… ここに潜り込んでおります」
この人、さくの所の…
小声で打ち明けてくれた付き人の男の話しに色々察した雪美は涙を浮かべながら微笑む。
「… 雪美様、今日の初見世、雪美様を水揚げされる方は陸らしいです」
「… は?絶対に嫌!!」
付き人の男の話を聞き、溜め息を吐いた雪美は陸の名前を聞くだけで拒絶反応から断固拒否。
遊郭に売られ、あの男からは解放されたはずなのに… 初めての客が陸?私はまだあの男の支配下に置かれるの?… それだけは死んでも嫌…
初見世の時間はどんどん近付く。
ここに来てもまだあの男は私を…
突然、店の中が騒がしくなる… 何事かと思い部屋を出て、階段から下を覗けば咲夜がいた。
「ゆきの… 八重桜の水揚げは俺がする!!」
店まで乗り込み、楼主に直談判する咲夜を見た雪美は… 泣きたくなる気持ちを必死で抑えた。