鏡と夜桜と前世の恋
ーー 蓮稀、やっとここに来れたぞ。
感覚的にはついこの間まで、面と向かって話せていた気がするのに、あれからもう一年は経つんだな… 月日は長いようで経つのが早い。
墓前に立ちそっと手を合わせる咲夜。
「蓮稀、ゆきの事本当にありがとう… お前は鈴香と穏やかに過ごせてるか?」
形見としてゆりねから手渡された万華鏡を懐の中から取り出した咲夜は、今にも流れ落ちそうな涙を堪えながら笑顔を必死で作り蓮稀の居る墓石に微笑みかける。
「蓮稀、俺は何があってもゆきから離れない、ゆきと必ず生きるから… 心配せず見ててな… 」
この万華鏡は蓮稀と鈴香から、俺とゆきへの結婚祝いだったと聞いた… だからこそ咲夜は、この万華鏡を墓の前にそっと置く。
「… これは一度返す。全てが終わり、ゆきと太陽の下で堂々と、何の不安も心配もなく穏やかに過ごせる様になった時に貰いに来る。次はゆきと2人で来るから… この万華鏡はその時に受け取る」
蓮稀とまだまだ話したい事も色々あったのに、亡くなってしまってはそれももう出来ない…
目を閉じてもう一度深く手を合わせ、ゆっくり立ち上がった咲夜は涙が頬に流れないように空を見上げる。
蓮稀… 俺の声聞こえるか?
泣いてなんかないぞ、俺は弱くない。弟だからってもう子供扱いさせないからな。
自分なりの決意を胸に抱き、蓮稀と鈴香が埋葬されている寺を後にした咲夜は、長崎でゆりねの仲間から受け取った文の存在を思い出し… 確認する事に。
文の内容は、陸の事が色々書かれてある。
ゆきを守りアイツと戦う為、咲夜は陸のことを色々調べさせていたのだった。
ーー おすず一家の長男『陸』とは。