鏡と夜桜と前世の恋
" 紗枝の話 "
満月が大好きな蓮稀の幼馴染みとして出していた紗枝の正体は、なんと藤川と同一人物。
生涯蓮稀を一途に愛し続けた…この綺麗な恋物語は完全に塗り替えられたもの。
紗枝の生涯はあまりにも悲しく残虐で
当時の俺は紗枝に対して心を痛め、彼女の生きた生涯だけのお話しを短編の小説として文字に起こしましたが全て藤川の俺を騙す作り話…
蓮稀との間に出来たと言われる『さよ』すらも存在しなかったと判明しました。
この話しから見えてくるのは、さよの名前の由来 " 名前を貰った " と話してきた千花とカヘイの娘・ここには載せていない蓮稀の初恋の女性と言われて来た『小夜 (さよ)』の存在…
千花とカヘイ自体が存在しない人物だったので、蓮稀を一途に愛したまま亡くなったと言われている小夜の話しも塗り替えられた作り話…存在しなかったと言うことになります。
【 紗枝の短編小説 】
手を伸ばして色に触れる。
色褪せた世界で輝く彼女の歌声は音の調べと一緒に響きとどまり
懐かしい風の香りは遠い過去の記憶に引き戻す。
夢はどこまで夢なのか私には判新しきれない
目の前に広がる真実はあまりにも色浅く籠の中に囚われた蝶は幼馴染の好みから素直になる事が出来ずあの方の後ろ姿を見送るだけ。
月を見ると守心するのは
あなたと逢える短い時間の始まり。
満日の江戸の刻
痛々しいほど深く付いたあなたを誘い婚礼の契なく最初で最後の床入りを交わし子を孕ませたなど口が裂けても言えやしない。
私の想いを受け入れなかったあの方に復讐しようと自ら籠の中に入る。
私への罪悪感から、身請け出来ぬのかとあなたは何度も何度も籠の中に足を運ぶ。
籠に入って一年と五日
あなたの身請けを承諾したその日まで、私は十四羽の折り鶴を一日一羽贈りましょう。
幼き頃から密かにお慕いしていた私の深い愛とこの契りだけは我が子とあなたとの幸せになるように。
十四羽の折り鶴を渡した夜。
あの方は私に翌日の正午身請けに上がりますと言いました。
我が子の存在を知るのは私と花魁道中で美しく着飾る太夫…あの方の馴染みでもあった姉さんだけだったはずなのに。
夜明け前、私を迎えに来たのは龍に入るのを手伝ってくれたある男。
大雨の中、私はどこかに連れて行かれて
身請けを受けさせぬと私を携問し大切な我が子を掻き出そうとする
雷の音が得ましい…雷雨は己の感情を表しているかのように荒れ狂う私は意識が遠くなり目を閉じるまであの方の名を呼び続けた。
約束の正年、彼女はこの世に居なかった
あの日あの時、彼女の気持ちを受け止めてやれていたらこんな結末にならなかったのに
手元に残った十四羽の折り鶴は彼女と二人で稽古を重ねた…秋は木漏れ目が綺麗な銀杏の下に埋めることにした。
彼女との思い出を思い返し男は言う
「俺が届けた折り紙と十四羽の折り鶴は…今度はお前が届けに来い、生きて必ずあの場所に」