鏡と夜桜と前世の恋
ーー 翌日。
約束通り咲夜と2人で川下りに来たのは良いけれど… 雪美が少し目を離した隙に遊亜が居た。
なんでタイミング良くまたその子が居るの? …もしかして咲夜が呼んだの?
やっぱり約束してたんじゃない
わざと見せつけるように咲夜の腕に巻き付いて離れない遊亜を見た雪美は、大きな溜め息を吐く。
「…嘘つき」
さくはさくでどうしてもっと嫌がらないの?
「え、ゆき?」
「… 帰る」
突然現れた遊亜の態度を見た雪美は、拗ねて来た道を戻ろうとする。
「ゆき!待て、違うこれはコイツが…「コイツ… 仲良しなんですね、もう知らない!!!」
「咲夜ー、私と川下り行くんでしょ?」
咲夜咲夜と猫だて声を出し続ける遊亜。
「 …さくは …私と行くの」
何でベタベタするの… やだ、なんでこの子と仲良くしてるの?
「私が約束したんだよ、ゆきちゃんはいつでも咲夜と行けるでしょー?」
「は?俺はゆきと…」
遊亜は咲夜の言葉を遮り、一切聞く耳持たず… 無理矢理、咲夜の体を船に押し込む。
「ばいばーい、ゆきちゃん♡」
「え、待… ふざけんな!!!」
嘘でしょ… 雪美はその場に置き去り。
怒る咲夜の姿と勝ち誇った笑顔を見せる遊亜が乗る船を見送ることしか出来ず…
泣きたくなる気持ちを必死で押さえて、咲夜の好きな鮎の塩焼きを買いに行くことにした。
ーー 数時間後。
鮎の塩焼きを買って咲夜の家の前で待っていれば、ぐったりした咲夜が帰って来た。
「…ゆき!!!」
咲夜が帰って来てホッとした反面、理由はどうあれあの子と2人で船に乗った事には変わらない…
本当は凄く甘えたいのに、妬いたって素直に言いたいのに… なかなか素直になれない雪美。
「もう川下りには行かない… 他の人とした川下りなんて嫌… 」
え、ゆきが嫉妬してる?俺に?
嫉妬するのは、俺のことを好きな証拠… ゆきには悪いけど、嬉し過ぎて思わず顔がにやける。
「可愛いなあ… 」
可愛い、可愛い過ぎる、俺のゆき… 本音を思わず漏らした咲夜は雪美の体を力一杯抱き締める。
咲夜の愛の深さは知ってる… 私を誰より、心から愛してくれてる事も…
分かってるのにどうしても素直になれない雪美は、ツンツンしながら咲夜に買った鮎の塩焼きを手渡す。
「 …塩焼き …あげる」
「買って待っててくれたのか?」
「 …ふん」
ーー これが雪美の初恋と、雪美が咲夜を好きになり始めた頃のお話し。