鏡と夜桜と前世の恋
ーー その頃。
裏路地で座り込んだままの雪美は、自分の手にべったりと付いた、咲夜の血を見ていた。
" 咲夜さんがどうなってもいいんだね! "
おすずさんが私に言った言葉。あの時の私はその言葉の意味よりも " 咲夜から離れたくない " ただそれだけで、後先の事を考えず逃げ出した。
もっと早く咲夜の言葉の真意に気付けていたら…
雪美は、おすずの屋敷に戻った咲夜がまだこの裏路地を通るのを何時間も待ち続けた。
数時間後…
雪美は前方から暗い表情で歩いて来る咲夜を見つけて " うわーん " と涙きながら抱き付く。
「え、ゆき… 「私、さくと絶対別れてあげない!何があってもずっと一緒に居るって約束したんだから… 」
ゆき…
雪美の反応に泣きそうにながら、愛おしそうに微笑んだ咲夜は、抱きしめた相手の髪を優しく撫でる。
「ん。約束だよ。ゆきと離れる時は、俺が死ぬ時だ。誰よりも、何よりも、自分の命に変えてでも愛してるよ、ゆき… 」
" 絶対に離さない "
咲夜は、鼻を啜りながら子供のように泣きじゃくる雪美の体を力一杯、包み込むように抱きしめる。
「私も愛してる… 腕ごめんね、痛かったよね、さく… ごめんなさ… 「大丈夫だからもう泣くな」
「だって… こんなに血が沢山… 」
「もう全然痛くない、大丈夫だ」
ゆきの豹変には正直驚いた。けど俺は、ゆきになら本気で殺されても良いと思った。
俺はそれだけの事を… ゆきを深く傷付けた。狂った姿でさえも愛おしくて、愛おしくて堪らなかった。
この日を境に、おすずの相手として咲夜も呼ばれるようになり… おすずが満足するまで、終わるまで、咲夜は心を押し殺し蓮稀の代わりに耐え続けた。