鏡と夜桜と前世の恋
「… さくは、いつになったら来るの!!」
徐々に日も暮れ、そろそろ店に戻らなければならない時刻… 持ち帰りで紙に包んで貰った団子を橋の上で数本食べた雪美は付き人の男と店に一度戻る事にした。
「… もう一箇所行きたい場所があります」
打掛 (遊女の着物) に着替えた雪美は、懐に入れたままの懐中時計を見て男に言う。
「分かりました、また待っています」
付き人の男と途中で別れた雪美は、また別行動で少し歩き八重桜が咲くある場所に辿り着く。
「ここの桜は見事… 」
この八重桜の場所も雪美にとって大切な場所で…
「…本当に見事だな」
夜の風に舞う八重桜、桜吹雪に見惚れていると、背後から聞き覚えのある優しい声… ずっと待ち侘び恋焦がれていた声に、雪美の時は一瞬止まった。
この声… 聞き間違えるはずがない。
ゆっくり振り返り、そこにいたのは一年待ち続け、死ぬほど会いたかった愛しい男の姿。
「さ… 」
ほら、咲夜は死んでなんかない… ずっと信じてた。
咲夜を目の前に心臓がドクンドクンと高鳴るも、私は売られた身… この人の胸には飛び込めないと言葉を飲み込み気持ちを抑える。
「ゆき、ごめん… ずっと迎えに来れなくて」
咲夜は昔と変わらない、私の大好きな笑顔で微笑みを浮かべているのに… 変わってしまったのは私だけ…
「今更遅い… 私は今日初見世に立ちます。もう貴方はいらない」
もう泣いてしまいそう…震えそうになる声を必死で隠しながら咲夜の顔が真っ直ぐ見れず、背中を向ける雪美。