鏡と夜桜と前世の恋
「ゆき、なぜ故そんな事を言う… 」
「私が欲しければ遊郭に来たら会えますよ」
平然を装うので精一杯の雪美は、バレないように振り返り精一杯の笑顔を向ける… そんな雪美の腕を掴んだ咲夜は抱き寄せ包み込むように抱きしめた。
「は、離して… 」
雪美の体を咲夜は離そうとはせず…
「ゆき、何があった?」
" 雪美の態度は何か理由がある "
雪美の異変に気付いた咲夜は、雪美の顔を覗き込み真剣な表情で問いかける…
「……。」
「ゆき… 」
さくは真剣に向き合ってくれてる、なのに私は逃げようとしてるだけ。でも… 雪美は咲夜の胸元を押し、目の前の大きな八重桜を見つめる。
「… 私が陸の思い通りにならなかったから」
「は?アイツの思い通りにって… 」
「さくは死んだと伝えられたけど… 私は信じる事をしなかった、絶対信じたくなかったから。それが気に入らなかったらしく私はそのまま遊郭に売られたの」
「……。」
「遊郭ではね、さくが私みたいだと言った八重桜から名前を貰って… 八重桜と書いて " やえか " って名前で初見世に出るの」
痛々しく無理に笑おうとする雪美を後ろから抱き締めた咲夜は正面を向かせ、雪美と真っ直ぐ向き合う。
「お前はゆきだ、雪美だ... そんな名はいらん!」
咲夜の言葉に涙が溢れる…
本音を言えばこんな鳥籠から逃げ出したい。誰にも邪魔されずにさくと二人で幸せに暮らすの。
このまま貴方の胸の中に飛び込みたいのに…
「さく… お別れです、私はもう… さくの所には戻れません」
「ゆき… 」
雪美は咲夜の体を振り払い、付き人の男が待っている場所まで走って戻った。