甘やかで優しい毒〜独占欲強めな彼に沼る
「帰るか」
「はい」
どこへとは聞かない。
彼と一緒なら、どこでもいいのだ。
向かった先は、彼のマンションで…ドアをくぐる前までの甘い雰囲気なんて今はない。
壁を背にして追い詰められ、唯一の逃げ道を目の前の男が壁に手をついて視界を塞いでくる。
足の間に片足を入れられ、逃げる術が無くなった。
壁につく反対の手で、私の頂を持ち上げて視線を合わせ、不機嫌さを隠しもしない男の表情に息を呑んだ。
「俺以外の男に笑いかけるなよ。だから余計な虫がわく」
この男に、言われる筋合いはないのだが、男がかもしだす苛立ちに反論を言える雰囲気ではなく、ただ、無言を通す。
「菜々緒…俺はおかしくなりそうだ。これ以上嫉妬させないでくれ」
あなたもおかしくなればいい。
あなたしか見えなくなってしまった私のように、私に執着して…
もっと、もっと、私にはまって…
抜け出せない沼の奥深くまで足を踏み込んで溺れて…奥底まで落ちて、ハマってしまえばいいのに…
そう思いながら見つめ続けていた。
身体の関係から始まった私達に2人の始まりの言葉はなく、曖昧な関係のまま続いている。
だが、ここで反論したところで藪蛇でしかなく、素直に頷くことに越した事がないと、これまでの経験で思い知っている。