甘やかで優しい毒〜独占欲強めな彼に沼る

酷い
私を犠牲にして逃げたな。

連れて行かれたのは、丘の上にある、おしゃれなレストラン。

健斗の住むマンションとも近く、歩いて帰れるかもと思っていた。

「いらっしゃいませ…朱音か」

「なに、その残念な顔は」

「いや、別に。旦那は?」

「旦那じゃない」

「どうでもいいけど」

「よくないからね。新ちゃんといい、慧といい、旦那扱いするから、あいつ、調子に乗るんだから」

「調子に乗らせてるのお前だろ。で、ここ、レストランなわけよ。新とこみたいなバーじゃないの。わかる?」

コック服を着たワイルドなイケメンに、結城さんも有馬さんも、頬を染めているがだ。

よーく手を見て見てほしい。

普通、料理人は指輪を外して作業すると聞いたが、薬指にあるではないか。

外さないほど、愛する奥様がいるのだ。

「わかってるわよ。ただ…もう、いい。料理決まったら、呼ぶから」

「後で誰か来させる。それまで決めておけよ」

キッチンに戻って行く後ろ姿をせつなげに見つめていた。

「あの人かっこいいですね。朱音さんの片想い中ですか?」

女の感というやつだ。

ここにいる3人でさえわかるぐらいだから、あのコック服の男性は、あえて気がついていないふりを通しているのだろう。
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