甘やかで優しい毒〜独占欲強めな彼に沼る
それほど、嫌な思いをしたのだろう。
「…それだけか?」
「えっ?」
腕を伸ばして、菜々緒の手を繋いだ。
「な、なんですか?」
「とぼけんなよ。俺のほしいものわかってるだろ」
繋いでいた腕を引っ張り、開いていた足の間に彼女を収めて見上げる。
彼女を癒したい。
目を閉じてキスを待つふり。
彼女のことだから、「ここ、会社ですからね」
断ってくると。
そしたら、『キスしたかったのお前だろ」とか言って、揶揄われたと怒って、嫌な思いを吹き飛ばせばいい。
だが…
チュッと触れて、唇を甘噛みしてくる。
予想外に、煽られる羽目になった。
「ここ仕事場だぞ。悪い女だな」
そう言って揶揄わなければ、この場で抱いてしまいたくなるほど、彼女の表情は、扇情的だった。
キスだけで足りなかったが、若林のおかげで、彼女の心は着実にこちらに向けられると、ほくそ笑むのだ。
ラーメン祭のイベント当日、若林がチラチラと菜々緒を見ていて、なんとか近寄ろうとしているらしいが、彼女は、忙しく一定の場所に留まる暇もない。
準備も落ち着き、開催時間まで後少しというところで、俺たちは、出店してくれる協力店に差し入れと挨拶周りを終えて、取りこぼしがないかチェックしていた時。