甘やかで優しい毒〜独占欲強めな彼に沼る

私がどんなに頑張っても、頷かなかった相手を、ものの数分で柔軟してしまう。そして、きっと今回も、人の良い笑みを浮かべて、企画の変更も頷かせるのだ。

全て、こちらの利益を上げる為に。

「ありがとうございます。では、早速ですが、本日中に伺いますので決めてしまいましょう」

『じゃあ、午後からなら』

「2時頃いかがでしょう?」

『大丈夫ですが』

「では、担当の小柴と共に、私も一緒に伺いますので、よろしくお願いします」

『あっ、はい。お待ちしてます』

「では、後ほど」

通話を切った男から、私の手にスマホが戻ってきて、丸めていた束で頭をポンと軽く叩かれ、目の前に丸まったダメ出しの企画書が現れた。

「毎回、お前の企画は粗い面もあるが、目の付け所はいいんだ。頷かせる提案書を作れば、その後は、俺がなんとかしてやる。ここ、お前の貸切にしといてやるから、落ち込んでないでいい企画考えろよ」

先程まで怒っていた男が、表情を笑顔にして出ていく。たった2つしか違わないこの男に敵わないのが悔しい。

人好きのする笑顔と言葉で、簡単に私のモチベーションを上げ、心を掌握してしまう。

やっぱり嫌い…

好きになったりしない。勘違いさせる言動に易々と心が動かされそうになる自分が嫌い。
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