青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
◇
パーティーはすぐに和やかな雰囲気を取り戻し、史香は暇を持て余していた。
スマホを見ても、今日も休みの扱いになっているらしく、会社からの連絡はない。
今さらだけど、念のために課長に連絡しておいた方がいいかとホールを出ようとしたところで蒼馬が戻ってきた。
「私、帰らせてもらっていいですか」
「もう少しいてくれないか」と肩をすくめる。
「目的は済んだんじゃありませんか」
それはそうだが、と蒼馬は両手を広げた。
「里桜をうちの運転手に送らせたので車がない」
「歩くので結構です」
脇をすり抜けようとする史香の行く手を蒼馬がはばんだ。
「そう焦ることもないじゃないか」
「会社にも連絡しなくちゃいけないんで」
「それは心配ないよ。ちゃんと休みにしてあるから」
――え?
「心配なら電話してみればいい」
言われなくてもそうするつもりですよ。
史香は狭い廊下から玄関ホールへ移動しながらスマホをタップした。
課長はすぐに出た。
「あの、すみません、課長、今日退院したんですけど……」
「ああ、分かってる。今日はゆっくり休んで明日からでいいよ」
「そうなんですか?」
「そちらもいろいろあるだろうから、こっちのことは気にしないでいい。じゃ、また」
一方的に切られてしまった。
「どう?」と、蒼馬が横からのぞき込む。
「今日は休んでいろと」
「だろ」
だろって、どういうことなのよ?
蒼馬はパーティー会場の方へ手を差し出したが、史香はその場を動かなかった。
「せっかくだから何かつまみながら話さないか」
「いえ、もう結構です」
「すっかり怒らせたみたいだね」
それはそうでしょ。
史香はたまっていた感情を吐き出した。
「あなたは好きでもない女性と簡単にキスができる男性なんでしょうけど、私はそういう人を軽蔑します。私にとっては重要なことだったので。この歳まで経験がなかった私がいけないのかも知れませんけど。ただ、訴えたりはしません。病院でお世話になりましたが、二度と関わらないでください。治療費を支払えというのなら支払います」
玄関へ向かおうとする史香を蒼馬が追いかける。
「待ってくれ」
今さら待つ義理などない。
歩幅の大きい蒼馬に腕をつかまれた。
「放してください」
「君は勘違いをしている」
「何がですか?」
振りほどこうとして、かえって両肩を押さえられてしまった。
「俺は本気だよ」と、じっと目を見つめられる。
「本気って、何に対してですか」
「君に対してだよ」と、真剣なまなざしが史香を捕らえていた。「一目惚れだ」
「そんないい加減な話、信じろって言うんですか?」
「いい加減とはひどいな」
抗議しつつも、蒼馬の表情は柔和だ。
――だって。
里桜にした仕打ちを見ていたのだ。
人間性に難があると思っても仕方がないんじゃないだろうか。