青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
第2章 交際0日リハーサル婚
オーベルジュの車寄せにロングボディのセダンが止まっていて、待ち構えていたグレイヘアの運転手さんがドアを開けてくれた。
「ありがとうございます」
「佐久山と申します」と、控えめな低音の声で自己紹介される。「以後、お見知りおきを」
「あ、はい、黄瀬川です。こちらこそよろしくお願いします」
蒼馬が後から乗り込んでドアが閉まる。
運転席との間には透明な仕切りが上がっていた。
「どこへ行くんですか?」
「ツインタワーだよ」
「えっ?」
今から会社かと思わず身構えてしまった。
「映画を見るって約束しただろ」
あ、ああ……。
もう始まってるんだ。
デートのリハーサル。
いつの間にか動き出していた車から見る景色が、見慣れているはずのサウスエリアへと変わっても、どこか知らない場所へ連れていかれるような気がした。
日が落ちて、クリスマスのイルミネーションがきらめく並木道を眺めていたら、蒼馬の顔がすぐ横にあった。
「きれいだね」と、同じ視線の先を彼が指さしている。
自分のことを言われたわけでもないのに、胸が高鳴ってしまう。
いつもは仕事帰りで心に余裕なんかなくて、こんなのただの街灯代わりだとしか思っていなかった。
きれいだなと素直に感じたのは初めてだった。
一緒に見る人がいるだけで、こんなにも印象が変わるなんて。
史香は流れていく光に見とれていた。
車はツインタワーの間に入っていき、有名ブランドのショーウィンドウが並ぶ特別な区画に止まった。
「着いたよ」
待ち構えていたドアマンに迎えられて蒼馬が車を降りる。
――え、ここで降りるの?
史香も慌てて外へ出た。
二人が降りると車が静かに去っていく。
あ、そうか、自分で駐車場に行くんじゃないのね。
「どうしたの、こっちだよ」
車を見送っていると蒼馬が手を差し伸べていた。
「あ、はい」
考えてみれば、運転手が運転してくれるという意味ではタクシーと変わらないわけで、そんなに驚くことでもない。
だけどやっぱり、車の高級感が桁違いで慣れそうにない。
ツインタワーの一階部分はショッピングゾーンになっているけど、五年も通勤しているのに、一度もゆっくり見たことがなかった。
会社帰りの人たちは史香と同じようにきらびやかなウィンドウに目もくれずに去っていく。
「ありがとうございます」
「佐久山と申します」と、控えめな低音の声で自己紹介される。「以後、お見知りおきを」
「あ、はい、黄瀬川です。こちらこそよろしくお願いします」
蒼馬が後から乗り込んでドアが閉まる。
運転席との間には透明な仕切りが上がっていた。
「どこへ行くんですか?」
「ツインタワーだよ」
「えっ?」
今から会社かと思わず身構えてしまった。
「映画を見るって約束しただろ」
あ、ああ……。
もう始まってるんだ。
デートのリハーサル。
いつの間にか動き出していた車から見る景色が、見慣れているはずのサウスエリアへと変わっても、どこか知らない場所へ連れていかれるような気がした。
日が落ちて、クリスマスのイルミネーションがきらめく並木道を眺めていたら、蒼馬の顔がすぐ横にあった。
「きれいだね」と、同じ視線の先を彼が指さしている。
自分のことを言われたわけでもないのに、胸が高鳴ってしまう。
いつもは仕事帰りで心に余裕なんかなくて、こんなのただの街灯代わりだとしか思っていなかった。
きれいだなと素直に感じたのは初めてだった。
一緒に見る人がいるだけで、こんなにも印象が変わるなんて。
史香は流れていく光に見とれていた。
車はツインタワーの間に入っていき、有名ブランドのショーウィンドウが並ぶ特別な区画に止まった。
「着いたよ」
待ち構えていたドアマンに迎えられて蒼馬が車を降りる。
――え、ここで降りるの?
史香も慌てて外へ出た。
二人が降りると車が静かに去っていく。
あ、そうか、自分で駐車場に行くんじゃないのね。
「どうしたの、こっちだよ」
車を見送っていると蒼馬が手を差し伸べていた。
「あ、はい」
考えてみれば、運転手が運転してくれるという意味ではタクシーと変わらないわけで、そんなに驚くことでもない。
だけどやっぱり、車の高級感が桁違いで慣れそうにない。
ツインタワーの一階部分はショッピングゾーンになっているけど、五年も通勤しているのに、一度もゆっくり見たことがなかった。
会社帰りの人たちは史香と同じようにきらびやかなウィンドウに目もくれずに去っていく。