青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
チケット売り場の壁に表示されたデジタルサイネージに、さっきパーティーで会ったばかりの人が映っていた。
「この方、さっきの……」
「久永里桜だよ」
「主演女優さんなんですね。存じ上げなくて、怒らせてしまったみたいで」
「世間的には結構有名なんだろうと思うよ」
「そうだったんですね」
史香は画面を指さした。
「この映画にしますか?」
『十年後、永遠の丘で約束の愛を抱きしめる』
題名だけで、もう見なくてもいいんじゃないかと思えるような恋愛映画だ。
苦手なジャンルだし、特に興味もない。
とはいえ、里桜に対する罪悪感もあったし、すぐに上映が始まる映画は他になかった。
「じゃあ、そうしようか」と、蒼馬は特に反対もせずチケット販売機の前に立った。「ええと、席は後ろの方がいいかな」
戸惑うことなく画面を操作すると、スーツの内ポケットから小ぶりな財布を取り出し、カードで決済する。
慣れてるのかなと一瞬思ったけど、このくらいのことならそんなに難しくはないのかも。
発券されたチケットを持って、次に売店へ向かう。
「映画館ではポップコーンを買うんだろ?」
「それが正しいのかどうかは、私には分かりません」
「じゃあ、俺が決めるね。チーズとキャラメルのミックス味にしよう。ドリンクは?」
「甘くないので」
「じゃあ、アイスティーのストレートでいいかな」
店員さんに渡されたバケツから漂う濃密なキャラメル味の甘い香りに包まれて、思いがけず気分が高揚した。
映画館も、ポップコーンもずいぶん久しぶりだ。
幼稚園くらいの頃に親に連れられてアニメか何かを見た時以来だ。
「さ、行こうか」
「はい」
洞窟のような暗い通路に入ったところで、蒼馬がチーズ味のポップコーンを一つつまんで自分の口に放り込んだ。
「へえ、うまいもんだね」と、笑みがこぼれる。「こんなおいしいの食べたことないよ」
言いすぎじゃないかと思ったけど、高級素材のケーキとか老舗の和菓子ばかり食べ慣れてると、かえって庶民的なお菓子がめずらしいのかもしれない。
「お行儀悪いですよ」
「風紀委員?」
「違います」
「ああ、そうか」と、キャラメル味を史香の口に押し当てる。「デートではアーンってするんだよな」
「し、しませんよ、そんなはしたないこと」
思わずのけぞる史香を見ながら、蒼馬はつまんでいたキャラメルポップコーンを自分の口に放り込んだ。
「どっちもうまいよ」
よほど気に入ったのか、席に着いてからも蒼馬の手はわんぱく坊やのように止まらない。
「映画が始まる前になくなっちゃいますよ」
「飼育係?」と、蒼馬がキャラメル味を突き出す。
「違いますよ」と、史香は自分でチーズ味をつまんで口に入れた。
「そろそろ教えてくれてもいいだろ。何委員だったの?」
「この方、さっきの……」
「久永里桜だよ」
「主演女優さんなんですね。存じ上げなくて、怒らせてしまったみたいで」
「世間的には結構有名なんだろうと思うよ」
「そうだったんですね」
史香は画面を指さした。
「この映画にしますか?」
『十年後、永遠の丘で約束の愛を抱きしめる』
題名だけで、もう見なくてもいいんじゃないかと思えるような恋愛映画だ。
苦手なジャンルだし、特に興味もない。
とはいえ、里桜に対する罪悪感もあったし、すぐに上映が始まる映画は他になかった。
「じゃあ、そうしようか」と、蒼馬は特に反対もせずチケット販売機の前に立った。「ええと、席は後ろの方がいいかな」
戸惑うことなく画面を操作すると、スーツの内ポケットから小ぶりな財布を取り出し、カードで決済する。
慣れてるのかなと一瞬思ったけど、このくらいのことならそんなに難しくはないのかも。
発券されたチケットを持って、次に売店へ向かう。
「映画館ではポップコーンを買うんだろ?」
「それが正しいのかどうかは、私には分かりません」
「じゃあ、俺が決めるね。チーズとキャラメルのミックス味にしよう。ドリンクは?」
「甘くないので」
「じゃあ、アイスティーのストレートでいいかな」
店員さんに渡されたバケツから漂う濃密なキャラメル味の甘い香りに包まれて、思いがけず気分が高揚した。
映画館も、ポップコーンもずいぶん久しぶりだ。
幼稚園くらいの頃に親に連れられてアニメか何かを見た時以来だ。
「さ、行こうか」
「はい」
洞窟のような暗い通路に入ったところで、蒼馬がチーズ味のポップコーンを一つつまんで自分の口に放り込んだ。
「へえ、うまいもんだね」と、笑みがこぼれる。「こんなおいしいの食べたことないよ」
言いすぎじゃないかと思ったけど、高級素材のケーキとか老舗の和菓子ばかり食べ慣れてると、かえって庶民的なお菓子がめずらしいのかもしれない。
「お行儀悪いですよ」
「風紀委員?」
「違います」
「ああ、そうか」と、キャラメル味を史香の口に押し当てる。「デートではアーンってするんだよな」
「し、しませんよ、そんなはしたないこと」
思わずのけぞる史香を見ながら、蒼馬はつまんでいたキャラメルポップコーンを自分の口に放り込んだ。
「どっちもうまいよ」
よほど気に入ったのか、席に着いてからも蒼馬の手はわんぱく坊やのように止まらない。
「映画が始まる前になくなっちゃいますよ」
「飼育係?」と、蒼馬がキャラメル味を突き出す。
「違いますよ」と、史香は自分でチーズ味をつまんで口に入れた。
「そろそろ教えてくれてもいいだろ。何委員だったの?」