青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
 と、そこで場内が暗くなって予告編が始まった。

 平日の夜だからか、観客はまばらだった。

 あまり期待していなかったのに、本編が始めると史香は画面に引き込まれていた。

 高校時代の回想シーンから映画は始まる。

 男性役の俳優は人気アイドルらしいけど、制服姿に無理がある一方、里桜は現役女子高生と言われても違和感がないくらい似合っていた。

 想いが通じ合っているのになかなか告白できなかった二人。

 初々しさがむずむずするけど、溌剌とした里桜の演技がはまっている。

 学校行事で来るはずだったツインタワーの展望台。

 彼女はそこで彼に告白しようと決めていた。

 なのに、彼はその前日、里桜の目の前で交通事故に巻き込まれて死んでしまい、彼女はショックで記憶を失ってしまうというところまでが前半のシーンだった。

 場面は十年後に移り、社会人になった彼女の前に、昔の彼に似た男が現れる。

 失われていた記憶がよみがえり、彼女は動揺する。

 死んだ人が生き返るはずがないと分かっていても、彼と重ねてしまう。

「俺のこと知ってるの?」

 問い詰められて過去の話を聞かせると、彼に交際を申し込まれる。

「彼だと思って俺とつきあってよ」

 失われた十年を取り戻すように二人は少しずつ穏やかに愛を育んでいく。

 学生時代に奔放だった彼女が打って変わって恋愛に臆病な大人の女性となったのを里桜がうまく演じていた。

 史香は自分の頬が濡れていることにも気づかず、画面に見入っていた。

 取り戻した幸せが永遠に続くかと思われたが、彼女は難病に冒され、余命半年を宣告される。

 そして彼は正体を明かす。

 実は彼は十年前に死んだ男で、彼女を迎えに来た死神だったのだ。

 十年前の記憶がよみがえらなかったら、彼は彼女を連れていかずに済んだのだが、思い出してしまったために、自らの手で彼女の命が絶たれるのを見届けなければならなくなったのだ。

 ラストシーンで、二人はツインタワーの展望台で十年前に伝えられなかったお互いの想いを確かめ合う。

 寄り添った二人の魂がベイサイドの夜景に溶け込んでいったところでエンドロールが流れ始めた。

 ――そういえば、会社で後輩の菜月がツインタワーで映画の撮影をやっていると話していたっけ。

 仕事が忙しくて適当にあしらってたけど、自分がその映画で泣くとは思わなかった。
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