青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
里桜 act.1
里桜は事務所で『ベリが丘プレミア』のインタビュー取材に応じていた。
ライターが事務所と話し合ってそれふうにまとめるテンプレ記事ではなく、写真と文章で六ページにわたって本音に迫るロングインタビューは『ベリプレ』の看板企画だ。
「今日はお時間を割いていただきありがとうございます」
女性スタッフが男性カメラマンを紹介する。
「こちらはうちの契約カメラさんです。取材中の自然な表情をとらえたいので、自由なアングルで撮影させていただきます」
「ええ、どうぞ」と、里桜の母、霧ヶ崎雪乃が横から了承してインタビューが始まった。
近況の雑談から始まり、最近読んだ本や、はまっている趣味などの話題から春公開予定の主演映画の告知を経て、ベリが丘のトピックをいくつか混ぜたところで区切りとなった。
「すみません。写真のチェックをお願いします」
男性カメラマンの差し出すタブレットを、里桜よりも母親の方が一枚一枚入念に確認していく。
「あら、なかなか素敵な写真ばかりじゃない。表情の切り取り方がとてもいいわ。あなた腕は確かなようね」
「ありがとうございます」と、カメラマンは機材を片づけながら頭を下げた。
インタビュアーと母が細かい打ち合わせをしている間、里桜は考え事をしていた。
史香に悩み事を相談してみて、いろいろ思うところも出てきたのだ。
母が望むとおりの芸能人になり、世間的には人気女優としてたくさん仕事ももらえている。
ただ、それが今後も同じように続くことが、本当に自分の望む道なのか、確信が持てなくなってきているのだった。
仕事のしすぎで疲れているのかも知れないけど、休めば忘れられてしまうのがこの世界だ。
『代わりはいくらでもいるのよ』と、母からは釘を刺されている。
そう……。
華やかに見えるだけで、代わりがいくらでもいる仕事をこなしているだけなのだ。
本当にそれでいいのか。
考えれば考えるほど分からなくなってしまう。
「おっと」
床に膝をついて鞄に機材をしまっていたカメラマンが手を滑らせてスマホを落としたらしい。
拾ってあげようと目をやると、画面には『あの場面』が映っていた。
ストーカーに襲われたときの写真だ。
――え?
「失礼しました」と、男がスマホを自分で拾い上げる。
男はさっとスマホの画面を切り替えると、メモアプリをチラリと里桜に向けた。
《黄瀬川史香が妊娠した》
思わず声を上げそうになって息をのむ。
男は無造作に生えた顎ひげをいじりながらスマホをしまう。
――何が目的なの?
母に気づかれないように男に目線を送り、相手の出方を待ったものの、それ以上は何も言ってこなかった。
そうしている間に打ち合わせが終わったらしい。
「では、本日は本当にお忙しい中、お時間をいただきまして、ありがとうございました。原稿はすぐに送りますので、チェックの方、よろしくお願いします」
にこやかに頭を下げる女性スタッフに向けて里桜も頭を下げた。
顔を上げた時にはもうカメラマンはいなくなっていた。
ライターが事務所と話し合ってそれふうにまとめるテンプレ記事ではなく、写真と文章で六ページにわたって本音に迫るロングインタビューは『ベリプレ』の看板企画だ。
「今日はお時間を割いていただきありがとうございます」
女性スタッフが男性カメラマンを紹介する。
「こちらはうちの契約カメラさんです。取材中の自然な表情をとらえたいので、自由なアングルで撮影させていただきます」
「ええ、どうぞ」と、里桜の母、霧ヶ崎雪乃が横から了承してインタビューが始まった。
近況の雑談から始まり、最近読んだ本や、はまっている趣味などの話題から春公開予定の主演映画の告知を経て、ベリが丘のトピックをいくつか混ぜたところで区切りとなった。
「すみません。写真のチェックをお願いします」
男性カメラマンの差し出すタブレットを、里桜よりも母親の方が一枚一枚入念に確認していく。
「あら、なかなか素敵な写真ばかりじゃない。表情の切り取り方がとてもいいわ。あなた腕は確かなようね」
「ありがとうございます」と、カメラマンは機材を片づけながら頭を下げた。
インタビュアーと母が細かい打ち合わせをしている間、里桜は考え事をしていた。
史香に悩み事を相談してみて、いろいろ思うところも出てきたのだ。
母が望むとおりの芸能人になり、世間的には人気女優としてたくさん仕事ももらえている。
ただ、それが今後も同じように続くことが、本当に自分の望む道なのか、確信が持てなくなってきているのだった。
仕事のしすぎで疲れているのかも知れないけど、休めば忘れられてしまうのがこの世界だ。
『代わりはいくらでもいるのよ』と、母からは釘を刺されている。
そう……。
華やかに見えるだけで、代わりがいくらでもいる仕事をこなしているだけなのだ。
本当にそれでいいのか。
考えれば考えるほど分からなくなってしまう。
「おっと」
床に膝をついて鞄に機材をしまっていたカメラマンが手を滑らせてスマホを落としたらしい。
拾ってあげようと目をやると、画面には『あの場面』が映っていた。
ストーカーに襲われたときの写真だ。
――え?
「失礼しました」と、男がスマホを自分で拾い上げる。
男はさっとスマホの画面を切り替えると、メモアプリをチラリと里桜に向けた。
《黄瀬川史香が妊娠した》
思わず声を上げそうになって息をのむ。
男は無造作に生えた顎ひげをいじりながらスマホをしまう。
――何が目的なの?
母に気づかれないように男に目線を送り、相手の出方を待ったものの、それ以上は何も言ってこなかった。
そうしている間に打ち合わせが終わったらしい。
「では、本日は本当にお忙しい中、お時間をいただきまして、ありがとうございました。原稿はすぐに送りますので、チェックの方、よろしくお願いします」
にこやかに頭を下げる女性スタッフに向けて里桜も頭を下げた。
顔を上げた時にはもうカメラマンはいなくなっていた。