青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
リムジンがベリが丘駅のロータリーに停車する。
待ち構えていた蒼馬がドアを開けてくれた。
いつものスーツ姿ではなく、コートの下にジーンズとセーターといったカジュアルな服装だった。
「よう」
「どうしてここに?」
「家を出て行くんですって」と、車内からお母さんが手を振っている。
「というわけで、今夜泊めてくれ」
はあ……。
リムジンは二人をおいて去っていってしまった。
「うち、狭いから寝る場所ないんだけど」
「いいよ。座れる場所があれば」
「いいわけないでしょ」
「とりあえず」と、蒼馬が駅の改札口へ右手を差し出す。「寒いからアパートに着いてから話そう」
「夕飯どうしよう」
「食べられないものある?」と、蒼馬がたずねた。
「ううん。朝は匂いに敏感なんだけど、夕飯は大丈夫なの」
「じゃあ、大丈夫かな」
蒼馬が後ろ手に隠していたスーパーの袋を見せた。
「何か作ってくれるの?」
「もやしと茄子の挽肉炒め」
駅構内へ向かって歩きながら史香がくすりと笑う。
「どうかした?」
「意外とふつうのメニューだなって」
「なんだよ、毎日キャビアとかフォアグラでも食べてると思ってたのか。病気になるぞ」
電車は優先席が空いていた。
「荷物持つよ」と、腰掛けた史香は手を差し出した。
「いいよ。自分で持ってるって」
立っている蒼馬は車内を見回したり、暗くなった窓の外に流れる街の光を興味深そうに眺めている。
「そんなに珍しいの?」と、史香はちょっと皮肉な色を込めてたずねた。
「楽しいな」
まるで電車好きな子供みたいだ。
アパートに着いて史香の部屋の冷蔵庫を遠慮なくのぞき込んだ蒼馬は、味噌や醤油などの調味料を手慣れた調子で取り出した。
「ふだんも料理するの?」と、史香は冷凍ご飯を電子レンジに二つ入れた。
「留学してた時は一人暮らしだったからな。結構いろいろ料理してたぞ。日本の食材を売ってるスーパーもあったから和食もひととおりやったし、塊の肉を買ってきて、ステーキとか、南米風の串焼きとか、網焼きとか、いろいろ試して楽しかったな」
「網焼きってどういうの?」
「バーベキューグリルの炭火で牛肉の塊を朝から夕方まで焼くんだ」
「え、一日中?」
「気の長い料理だろ。その間、みんなで酒を飲んだり昼寝したり、だらだらしているうちにできあがる。南米らしい料理だよな。でも、信じられないくらいうまいんだ。弱火でじっくり焼いただけなんだけどな」
待ち構えていた蒼馬がドアを開けてくれた。
いつものスーツ姿ではなく、コートの下にジーンズとセーターといったカジュアルな服装だった。
「よう」
「どうしてここに?」
「家を出て行くんですって」と、車内からお母さんが手を振っている。
「というわけで、今夜泊めてくれ」
はあ……。
リムジンは二人をおいて去っていってしまった。
「うち、狭いから寝る場所ないんだけど」
「いいよ。座れる場所があれば」
「いいわけないでしょ」
「とりあえず」と、蒼馬が駅の改札口へ右手を差し出す。「寒いからアパートに着いてから話そう」
「夕飯どうしよう」
「食べられないものある?」と、蒼馬がたずねた。
「ううん。朝は匂いに敏感なんだけど、夕飯は大丈夫なの」
「じゃあ、大丈夫かな」
蒼馬が後ろ手に隠していたスーパーの袋を見せた。
「何か作ってくれるの?」
「もやしと茄子の挽肉炒め」
駅構内へ向かって歩きながら史香がくすりと笑う。
「どうかした?」
「意外とふつうのメニューだなって」
「なんだよ、毎日キャビアとかフォアグラでも食べてると思ってたのか。病気になるぞ」
電車は優先席が空いていた。
「荷物持つよ」と、腰掛けた史香は手を差し出した。
「いいよ。自分で持ってるって」
立っている蒼馬は車内を見回したり、暗くなった窓の外に流れる街の光を興味深そうに眺めている。
「そんなに珍しいの?」と、史香はちょっと皮肉な色を込めてたずねた。
「楽しいな」
まるで電車好きな子供みたいだ。
アパートに着いて史香の部屋の冷蔵庫を遠慮なくのぞき込んだ蒼馬は、味噌や醤油などの調味料を手慣れた調子で取り出した。
「ふだんも料理するの?」と、史香は冷凍ご飯を電子レンジに二つ入れた。
「留学してた時は一人暮らしだったからな。結構いろいろ料理してたぞ。日本の食材を売ってるスーパーもあったから和食もひととおりやったし、塊の肉を買ってきて、ステーキとか、南米風の串焼きとか、網焼きとか、いろいろ試して楽しかったな」
「網焼きってどういうの?」
「バーベキューグリルの炭火で牛肉の塊を朝から夕方まで焼くんだ」
「え、一日中?」
「気の長い料理だろ。その間、みんなで酒を飲んだり昼寝したり、だらだらしているうちにできあがる。南米らしい料理だよな。でも、信じられないくらいうまいんだ。弱火でじっくり焼いただけなんだけどな」