青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
 話をしている間も蒼馬は手を止めることなく、先に小鍋にお湯を沸かして味噌汁を作ってしまう。

 買ってきたもやしを少々分けて入れ、刻みネギと史香が渡した冷凍素材の野菜を追加したものだ。

「こういう素材もいいもんだな。切る手間が省けるし、具だくさんで健康的だな」

「生ゴミも出なくていいのよ。使い切れなくて腐らせる心配もないし」

「なるほど」と、味見をしてうなずく。「合理的だ」

 小鍋をテーブルに移し、蒼馬がコンロにフライパンをのせたところで電子レンジが鳴った。

「あ、ご飯あたたまったか。よろしく」

 史香が茶碗にご飯を移している間に、炒め物が始まる。

「ごま油の香りは気にならない?」

「うん、ショウガとかニンニクも今は平気」

「何が駄目なのか、全然分からないな」

「うん、私も分からない」と、史香は蒼馬の手さばきを眺める。「急におかしくなるからね」

 蒼馬は調味料をはからず、適当に投入していく。

 それでも片手であおるフライパンからはいい香りが漂ってくるし、見た目もつややかでおいしそうだ。

 菜箸でもやしを一本つまんで史香に突き出す。

「どう?」

「あっふぃ。うん、おいひい」

 ひょいっとお皿に移して完成だ。

 小さなテーブルに二人分の夕食が並ぶ。

「いただきまーす」

 味噌汁は野菜のうまみが甘くておいしいし、もやしと茄子の挽肉炒めは甘味噌ダレがしっかり絡んでご飯がすすむ。

「すごくおいしい」

「それは良かった」

 あまりにもおいしくて気づいたら二人とも無言で完食していた。

 がっついちゃったかな、と反省した史香はお湯を沸かしてお茶をいれた。

「ああ、うまいな、お茶」

 頬を赤くしながら蒼馬がほうっと息をつく。

 なんだかずいぶんと一緒に暮らしてきたみたいな感覚だ。

 洗い物をしながら蒼馬が住む場所について切り出した。

「どこに住もうか。史香の職場に近いところがいいかな」

「ベリが丘は高いでしょ」

「環境のいい低層マンションもあるぞ」

 そっちの高さじゃなくて。

 お金持ちのトークって、たまに合わなくて困る。

「子供が生まれると、どういう間取りがいいのかな」

「うちのグループの不動産部門に聞いてみたんだが、間取りよりも保育園とか公園とか治安とか、そういう面を優先して考えた方がいいってさ。まあたしかに、部屋が余っても困らないけど、環境は変えられないからな」

 お金に余裕がある人の考え方だとは思うけど、実際、子供中心の生活になるんだから、安心安全とか利便性といった外的環境は大切だ。

「そういう意味では、ベリが丘のサウスエリアは若い世代も多いから、子育てにはおすすめだって言われたよ。うちの実家みたいに昔ながらのノースエリアは高齢化が進みすぎて子供の姿を見かけなくなったからな」

「サウスエリアなら、ご実家にも遊びに行きやすいしいいかもね」

「じゃあ、史香の体の調子がいい時に実際に見に行ってみよう」

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