青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
「それはいいんだけど」と、史香は部屋を見回した。「それまでは蒼馬もここに住むつもり?」

「うーん、さすがにそれは無理だな」と、蒼馬も屈託なく笑う。「今夜だけは頼むけどさ」

「どこに寝るのよ」

 そもそも、布団だって里桜の時同様で、買い増しはしていない。

 エアコンを強めにしてもやっぱり里桜も寝付きが良くなかったようだし。

「毛布があればなんとかなるよ。キャンプみたいなものだ」

「キャンプしたことあるの?」

「アメリカでは毎年してたな。サマーキャンプで子供たちを引率していくアルバイトをしてたんだ」

「たき火でマシュマロ焼くの?」

「ああ、あれか」と、遠い目で微笑む。「やったけど、俺はあんまり好きじゃなかったな。なんで焼くんだろうな。加減が難しくて焦げたり、わざと燃やしたり、ふざけるやつも多くてね。食べ物を粗末にするのを気にするのって、やっぱり俺って日本人なんだなって思ったよ」

 洗い物を終えて、お茶のおかわりを注ぐと、二人はベッドを背もたれにして並んでホットカーペットの上に腰掛けた。

 史香は気になっていたことをたずねた。

「蒼馬は生活レベルの違いは気にならないの?」

「俺と史香のこと?」

「うん」

「そんなに違いはないんじゃないか」

 そんなことないでしょう。

 口には出さず、史香は蒼馬の肩に頭を乗せた。

「たしかにうちはお金持ちだってことは自覚してるよ。仕事で必要なスーツや持ち物はたしなみとしてお金をかけるし、交流だって有名人を相手にすることもある。だけど、そればっかりってわけでもないし、日常生活は普通だと思うよ」

「私みたいな庶民の暮らししか知らないのと、上流階級の暮らしと両方知ってるってことなのかな?」

「ああ、まあ、そうだな」と、蒼馬がうなずく。「贅沢な暮らしっていうイメージがあるかもしれないけど、むしろ逆だな。お金があると、物欲がなくなるんだよ。欲しければいつでも買えるだろ。そうすると、そう思った瞬間、手に入れた気になって満足しちゃうんだよ。だから、生活に必要のないものはまったく関心がなくなるんだ。たとえばプラベートジェットなんて持ってたって、それを使うためにはわざわざどこかへ行かなくちゃならないわけだろ。そうなると、逆に自分の人生を束縛する物になってしまうから、いらないんだよ。史香に会うためにはまったく役に立たないし」

 滑走路がないと着陸できないもんね。

 ヘリコプターだって、縄ばしごで乗り降りするなら、車の方が楽でいいし。

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