あのとき、君がいてくれたから
それからも、クラスのみんなからは謝罪や友達になろうという誘いが多くなった。
陰口が、褒め言葉に変わった。
私はもう満足だ。
放課後、昇降口の壁にもたれかかっている遠坂を見つけると、私は迷わずに声にかける。
「遠坂帰ろー。」
「うん、待ってた。」
遠坂と手を繋いで、帰り道を歩く。
そうそう、言いたいことがあったのだ。
「あのさ、私、遠坂に下の名前呼んでもらいたい。呼び捨てで。いい?」
遠坂は少し戸惑った顔をしたがすぐうなずいてくれた。
「じゃあせーので言うか。」
「わかった。」
私たちは同時に息を吸った。
「「あかね。」」
遠坂茜(あかね)。
高菜あかね。
被るからクラスメイトからもずっと高菜で呼ばれていた。
それは遠坂も同じ。
「やっぱ変な感じ。」
私がそう言うと遠坂...茜も頷いた。
茜が私の髪にそっと触れてくる。
前の私なら文句言っただろうけど、私はそれよりもバクバク音をたててる心臓の音が茜に聞こえていないか不安だった。
いつもの広場に着き、大好きな彼を思いっきり抱きしめる。
茜は何も言わずに私の背中に手をまわしてくれた。
茜の匂いにつつまれながら、ふと、空を見ると綺麗な茜色に染まっていた。
あのとき、君がいてくれたから 【完】