紫苑くんとヒミツの課外授業
教室の黒板の前には、何やら人だかりができていて。
「おっ、来た来た! 水瀬咲来のお出ましだぁ」
クラスの陽キャ男子・森田くんにいきなりそんなことを言われた私は訳が分からず、人だかりのできている黒板の前に行くと。
……え。何これ。
教室の黒板にはチョークで、大きなハートの相合傘の絵が書かれていて。縦線の左右には、私と紫苑くんの名前がそれぞれ書かれていた。
「おれ、昨日見たんだよ。咲来と滝川が二人で相合傘して歩いてるところ」
「まじ? 二人って付き合ってんのかよー!」
男子たちが、私を見てからかう。
「ち、違うの。私と紫苑くんは、付き合ってるとかじゃなくて……」
「うわ。咲来の奴、滝川のことを“ 紫苑くん ”って呼んだよ」
「ヒュー! 熱いねぇ」
ダメだ。私が否定しようとしても、誰ひとり聞く耳を持ってくれない。
中学生にもなって、まさかこんな子どもみたいなことをする人たちがいるなんて。
私は、掌をぎゅっと握りしめる。
──ガラガラ。
すると再び教室の扉が開く音がしたのでそちらに目をやると、中に入ってきたのは紫苑くんだった。