紫苑くんとヒミツの課外授業
教室は、水を打ったようにしんと静まり返る。
「……」
そして紫苑くんの問いかけに、誰も何も答えない。
「誰がやったか知らないけど。こんなことにわざわざ時間かけるくらいなら、その時間を勉強に費やせよ。期末テストも近いんだから。なぁ、そうだよな? 森田」
紫苑くんが、森田くんをギロリと睨む。
「うっ……」
森田くんはまるで、蛇に睨まれた蛙のようだ。
「そ、そうだよな。滝川の言うとおりだよ。ごめん」
「おれも、悪かったよ、滝川。水瀬さんも……ごめんな」
珍しく声を荒らげた紫苑くんを見て、からかっていた男子たちが謝罪する。
そして一人の男子が、慌てて黒板の相合傘の絵を黒板消しで消していく。
「俺のことは何て言っても構わない。ただ、咲来のことを傷つける奴は、たとえ相手が誰であっても俺は絶対に許さないから」
紫苑くんが一瞬、聖来へと向かって言ったように見えたけど。
聖来は何食わぬ顔で、ふいっと彼から視線を逸らした。