紫苑くんとヒミツの課外授業
「……」
滝川くんは特に何も言わず私に軽く会釈すると、何事もなかったかのように自分の席に行き、カバンから文庫本を取り出し読み始める。
教室は今、私と滝川くんの二人きり。
時折、滝川くんが本のページを捲る音がするだけで、教室には静かな時間が流れる。
花の水やりも終わったし、SHRまでまだ時間があるから。今日の授業の予習でもしようかな。
私が自分の席に着き、一番苦手な数学の予習をしていると。
少ししてクラスメイトが続々と登校してきて、教室が騒がしくなり始める。
「あら? 咲来ちゃんったら、もしかして勉強しているの?」
すぐそばでよく聞き慣れた声がして私が顔を上げると、目の前には双子の妹の聖来が立っていた。
「バカな咲来ちゃんがいくら勉強をしたって、無駄なのに」
聖来が大きな声で笑い、サラサラの栗色の長い髪が揺れる。
「ほんとぉ」
聖来の取り巻きの女子たちも、一緒になってクスクス笑っている。
「でっ、でも。やらないよりはマシかと思って」
私は彼女たちに、努めて笑顔で返す。
「ふーん。まぁ、せいぜい頑張れば?」
それだけ言うと、聖来は私の席から離れていく。
「……っ」
私は、唇を噛み締める。
「って、やだ。いけない、いけない」
私は、口角をキュッと上げる。
「咲来、笑顔よ笑顔」
おばあちゃんに言われた通り、いつも前向きで笑っていなくちゃ。
私は、途中だった数学の問題に取りかかる。
……頑張っていれば、いつかきっと報われるときがくる。
そう思いながら過ごしていた私だったが、ある日突然、悲劇が起きる。