乳房星(たらちねぼし)−1・0

【雨に濡れた慕情】

(ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー…ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!)

さて、その頃であった。

またところ変わって、今治市喜田村《いまばりしきたむら》にある済生会病院にて…

この時、雷を伴った雨が降り出した。

この病院の個室病棟《びょうしつ》にゆきさんが入院していた。

ゆきさんは、8月2日の夜に自宅で大量吐血を起こしたあとこの病院に救急搬送されたあと緊急のオペを受けた。

ゆきさんは、十二指腸がんでステージ3に上がる一步手前の状態であった。

その上に、ゆきさんは身体のあちらこちらが弱っていたので、元気がなかった。

ゆきさんが入院している病室にゆりさんとゆかさんとゆいさんの3人がいた。

ゆりさんとゆかさんとゆいさんは、陽子さんと美澄《みすみ》さんとミンジュンさんにお仕事を引き継いだあと、休暇を取ってゆきさんのお見舞いに来た。

ゆきさんは、白でボタニカル柄のサテンパジャマ姿でベッドに寝ていた。

ゆかさんは、心配げな表情でゆきさんに言うた。

「ゆき、なんであんたは精密検査を受けなかったのよ?」

ゆきさんは、つらい声で言うた。

「怖かったから…受けなかった。」

ゆりさんは、あきれた表情で言うた。

「せやからなにが怖いのよ…命にかかわる大事な検査を受けずに放置していたからこなな目に遭《お》うたのでしょ…」
「だって…」

ゆかさんは、怒った表情でゆきさんに言うた。

「あんた、お医者さんから言われた言葉を思い出しなさいよ!!『十二指腸がんのステージ3に入る一步手前でしたよ…』と言われたのでしょ!!」

ゆりさんは、ものすごくつらい声でゆきさんに言うた。

「ゆき!!これを機に、自分の健康と向き合うことに切り替えて療養しなさいよ!!」
「分かってるわよ〜」

それから数分後であった。

出発時刻が来たので、ゆいさんはゆきさんに言うた。

「ゆき、これからうちらは多忙な日々がつづくのよ…次、あんたのお見舞いに来れる日はないかもしれへん…あんたは、お医者さんと看護師さんの言う通りにしたがって、療養するのよ。」

ゆきさんは、つらい声で『分かったわ〜』と答えた。

この時、ゆきさんの看病をしていた哲人《てつと》がユニクロのロゴ入の紙袋を持って病室に入った。

哲人《てつと》は、ゆきさんが着る換えの下着を買いにユニクロに行ってた。

ゆりさんは、哲人《てつと》に声をかけた。

「哲人《てつと》。」
「ゆりおばさま。」
「ユニクロに行ってたのね。」
「うん…かあさんが着るエアリズム(肌着)を買いに行ってた。」
「分かったわ…哲人《てつと》…うちらは明日から多忙な日々がつづくからお見舞いに来れんと思う…おかーちゃんの看病を頼むね。」
「うん。」

ゆりさんとゆかさんとゆいさんは、このあと付き人軍団の男たち100人と一緒に病院から出発した。

(ゴーッ…)

夜8時半頃であった。

この時間、空は満天の星空に変わった。

ゆりさんとゆかさんとゆいさんが乗り込んだ専用機が広島空港から飛び立った。

ゆきさんは、ぼんやりとした表情で窓に写る星空を見つめていた。
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