乳房星(たらちねぼし)−1・0

【大阪ロンリネス】

時は、9月9日深夜0時半頃であった。

またところ変わって、大阪市中央区城見《おおさかちゅうおうくしろみ》のテレビ局の楽屋にて…

番組の大量収録を終えた私は、ふらついた足取りで楽屋に入った。

「ヨシタカさま、大丈夫ですか?」
「ヨシタカさま、お肩につかまってください。」

私は、ウェンビンさんとたつろうさんに抱きかかえられながらディレクターチェアに腰かけた。

ディレクターチェアに腰かけた私は、ものすごくつかれた表情で『ああ…ひとつ終わった〜』と言うた。

たつろうさんは、ゆかさんを呼んだ。

「ゆかさん、ヨシタカさまがお帰りになりましたよ〜」

ミンジュンさんは、たつろうさんに言うた。

「今、ゆかさんは受付にいるわよ。」
「困りますよ〜」

この時、ゆりさんが私のバイタルチェックをすると言うた。

「うちがバイタルチェックをします。」
「お願いします〜」

ゆりさんは大きめのカバンの中から水銀の血圧計と聴診器を取り出したあと、私の左ひじにリストバンドをセットした。

またところ変わって、テレビ局の受付にて…

ゆかさんは、受付にある緑のカード式公衆電話機で哲人《てつと》のスマホに電話をかけていた。

ゆかさんは、受話器ごしにいる哲人《てつと》に言うた。

「ゆきはなんとか持ちこたえることができたのね…今の(血圧の)上の値は?…110台を維持しているのね…脈拍数と呼吸数も正常に戻ったのね…分かったわ…うちらは、明日以降もスケジュールがぎっしりと詰まっているから…おかーちゃんのそばにいることができんねん…哲人《てつと》と奈保子《なおこ》さんで…おかーちゃんを看病するのよ…ほな…」

(ガチャ…ジャラジャラ…)

ゆかさんがフックを手前に引いたと同時に、コインの返却口から10円玉がたくさんあふれ出た。

ゆかさんは、黒のラッションペンを使ってメモ書きをしていた。

またところ変わって、楽屋にて…

ゆりさんは、私のバイタルチェックを終えたあと大きめのカバンに水銀の血圧計をしまった。

その後、聴診器を両耳から外して肩にかけた。

この時、白衣姿のゆかさんが楽屋に入った。

ゆりさんは、ゆかさんに声をかけた。

「ゆか。」
「おねえちゃん。」
「哲人《てつと》は、なんて言うたの?」
「かろうじて(血圧の最大値)110台を維持することはできたけど…ゆきは…体力がひどく弱っているみたいよ。」
「ゆきの体力がひどく弱っていると言うことは、再び(血圧の)上の値が90を下回るおそれがあると思う…」
「うちらもゆきのそばにいてあげたいわよ…せやけど、うちらはこの先もスケジュールがぎっしりと詰まっているから…どうにもできんねん…あの子は、どこのどこまでうちらを困らせる気よ!!」

ゆかさんは、ものすごくいらだった声で言うた。

ゆりさんも、ものすごくいらだった声で言うた。

「あの子は、ちいちゃい時からわがままばかりこねていたのよ…おとーちゃんとおとーちゃんは、なにからなにまであの子を最優先にしていたわ…うちら5人(ゆりさんとゆかさんとゆいさんとゆなさんとゆみさん)はあの子のためになにもかもガマンしたわよ…ゆきはフツーの小学校からフツーカのコーコーへ行った…神戸の女子大で華のキャンパスライフをオウカした…うちらは、超ガリ勉モードの日々を過ごした…うちとゆかは、アメリカ合衆国の超一流医大へ…ゆいは、超一流の女子医大…ゆなとゆみは、高麗大《コリョダイ》へ進学した…フツーの学校生活を送ったゆらとゆきに、うちら5人のつらさなんか分からないわよ!!…もうやめよ…こなな話をしたら…気が狂いそうになるわよ。」

ゆりさんは、そう言ったあと大きくため息をついた。

(ゴーッ…)

時は、午前10時半頃であった。

A班のメンバーたちが乗り込んだ専用機が大阪伊丹国際空港から飛び立った。

あした以降もスケジュールがぎっしりと詰まっているので休みは1日もない…
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