乳房星(たらちねぼし)−1・0

【難破船】

それからまた3時間後であった。

屋台から出た私は、あてもなく中洲川端《なかすかいわい》を歩いて旅をした。

通りには、若いカップルたちや若い女性のグループたちや大学生のグループたちが往来していた。

通りのスピーカーから中森明菜さんの歌で『難破船』が流れていた。

私は…

明日からどう生きればいいのか…

大番頭《おおばんと》はんたちが行方不明になった…

ドナ姐《ねえ》はんの居場所が分からなくなった…

もう…

お先真っ暗だ…

私は、日の出と同時に大阪の入国管理局《ニュウカン》へ行こうと決めた。

入国管理局《ニュウカン》に保護申請をしたあと、第三国へ向けて出国する手続きを取る…

その後は、生まれ故郷のカナダへ帰る…

…と言う形である。

それからあとはどうしようか…

そんなことばかりを考えながら歩いた。

その間に、私は知らない間に福岡市内から遠ざかっていた事を忘れていた。

時は、明け方4時半頃であった。

私は、にしてつ二日市駅の駅舎の入口に設置されているベンチで休憩したあとショルダーバッグを持って旅に出た。

それからまた30分後であった。

私は、例のアパートの近くにやって来た。

この時であった。

アパートの部屋で恐ろしい事件が発生した。

アパートの部屋からなさけない男の声と女の泣き叫ぶ声と布が思い切り破れた音が聞こえた。

「イヤ!!やめて!!イヤ!!」

(ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!)

「やめろ!!妻に手を出すな!!胎内《なか》に赤ちゃんがいるのだぞ!!」
「ふざけるなマンネンイン!!」
「てめえばかり幸せになりやがって!!」
「助けて!!誰か助けて!!」
「やめろ!!」

あのヤローは、妻と共に番頭《ばんと》はんたちから暴行を受けたあと亡くなった。

恐ろしい事件を目の当たりにした私は、アパートからゆっくりと離れたあと急いで逃げた。

ところ変わって、JR二日市駅にて…

ショルダーバッグを持って事件現場から逃げてきた私は、駅舎に入ったあと左腕につけているカシオのデジタルウォッチを見た。

時計は、6時49分と表示されていた。

急がなきゃ…

番頭《ばんと》はんたちが追いかけて来るかもしれない…

私は、切羽詰まった声で駅員さんに言うた。

「すみません!!次の電車は何時に来ますか!?」
「どちらに行かれるのですか?」

そんな中であった。

(ピンポーン〜)

この時、待合室のスピーカーからチャイムが鳴ったあと熊本方面行きの電車がホームに入りますのアナウンスが聞こえた。

下りのプラットホームに熊本行きの電車が入った。

途中の大牟田までは快速で大牟田からは各駅停車《どんこう》の電車であった。

私は、ショルダーバッグを持って大急ぎで下り電車に乗った。

それから3分後に博多行きの電車がプラットホームに入った。

その後、私が乗り込んだ電車が出発した。

電車は、熊本方面へ向かって走行した。

次の停車駅は鳥栖(佐賀県)である。

鳥栖を出たあと、停車する駅は久留米と大牟田と大牟田から終点までの各駅である。

久留米か大牟田で降りたあと、博多行きの特急つばめに乗って折り返すしかない…

しかし、私は降りることができなかった。

恐ろしい事件現場を目撃したことが原因で足が凍りついて動くことができなかった。

そうこうして行くうちに、電車が久留米駅から出発した。

次の停車駅の大牟田駅に到着したが、私は降りることができなかった。

博多行きの特急つばめは、終点熊本駅からでも乗ることができる…

博多駅に到着したあと、新幹線ひかりに乗り継いで新大阪駅まで行く〜その後、入国管理局《ニュウカン》へ急いで行く…

そこから先は、どうしたらいい…

私の気持ちは、ひどく迷った。

大牟田駅を出発してから5分後であった。

私が乗っている電車が荒尾駅に到着した。

私は、ショルダーバッグを持って電車を降りた。

改札を通って駅から出たあと、私はめちゃめちゃに走った。

この時、私の気持ちは冷静になってものごとを考えることができる状態ではなかった。

ここはどこなんだ…

私は…

入国管理局《ニュウカン》へ行くのじゃなかったのか?

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