熱愛発覚中
ベッドのうえに座っていたのは、黒のニット帽をかぶっている男の人だった。

抗がん剤の副作用なのかはよくわからないが、痩せているその姿は見ていてとても痛いものがあった。

あの人が牛島さんのお父さんのようだ。

「父さん、きたよ」

牛島さんが声をかけると、その人は視線を向けた。

「ーー蓮司、きてくれたのか…？」

彼はそう言ったので、
「この間見舞いにくるって、そう連絡したじゃないか」
と、牛島さんは言い返した。

父親と顔を会わせているからなのか、牛島さんの顔つきは柔らかかった。

肩肘を張らなくていいからと言うことなのと身内に会って安心しているからと言うことなのかも知れない。

人の上に立つ者の務めなのかはよくわからないけれど、彼は常に肩肘を張っているような気がした。
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