浪漫大正黒猫喫茶
序章
綺麗なお堀を横目に、ブーツの音を鳴らして歩く。
コツ、コツ、と小気味いいその音は、新たに始まった生活とも相まって、毎朝毎晩、ワクワクを届けてくれる。
こんな洒落た格好をしたことがなかった私は、それまで持っていた不安の方が大きかった。
でも、それを褒めてくれた人がいてくれたから、私は今、明るい気持ちで道を進める。
あと一つ、二つ、建物を通り過ぎれば――ほら。
「おはようございます、ちょこさん。今日はよいお天気ですね」
店先の掃除をしていた、若店主且つマスターの上林豊さんが、柔和な笑顔で声をかけてくれた。
スラリとした高身長には、白のカッターシャツと黒のベストがよく似合っている。
温かな春の陽気にあてられて、少しばかり顔が熱くなってしまう。
ちょこ、というのは、もちろんあだ名だ。
瀬田千代子、それを子どもの頃から『ちょこちゃん』と呼ばれていたのが理由だ。
ある日、顔なじみのあるご近所さんが来店なさった時にそう呼ばれたのを、偶然マスターさんに聞かれてしまってから、いいですねそれと呼ばれるようになってしまった。
コツ、コツ、と小気味いいその音は、新たに始まった生活とも相まって、毎朝毎晩、ワクワクを届けてくれる。
こんな洒落た格好をしたことがなかった私は、それまで持っていた不安の方が大きかった。
でも、それを褒めてくれた人がいてくれたから、私は今、明るい気持ちで道を進める。
あと一つ、二つ、建物を通り過ぎれば――ほら。
「おはようございます、ちょこさん。今日はよいお天気ですね」
店先の掃除をしていた、若店主且つマスターの上林豊さんが、柔和な笑顔で声をかけてくれた。
スラリとした高身長には、白のカッターシャツと黒のベストがよく似合っている。
温かな春の陽気にあてられて、少しばかり顔が熱くなってしまう。
ちょこ、というのは、もちろんあだ名だ。
瀬田千代子、それを子どもの頃から『ちょこちゃん』と呼ばれていたのが理由だ。
ある日、顔なじみのあるご近所さんが来店なさった時にそう呼ばれたのを、偶然マスターさんに聞かれてしまってから、いいですねそれと呼ばれるようになってしまった。
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