浪漫大正黒猫喫茶
 古い木と珈琲豆の香りが鼻をくすぐる。
 初めてここへ来た時から変わらず、ドキドキする香りだ。

 更衣兼休憩室として充てられている部屋で、私はマスターとお揃いのカッターシャツに袖を通す。
 袴から洋装に着替えると、気分がただ変わるというだけでなく、これまでになかった責任感のようなものも芽生える。
 ここで雇われるまで、仕事などやったことのない私には、重すぎる責任感だ。

 けれどもそれだって、あの優しい笑顔の元でなら、少し、いやかなり中和される。
 もっとお堅い仕事であったなら、私はすぐに挫折していたことだろう。
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