宝石みたいな婚前同居〜一夜限りのはずが強引御曹司に迫られています〜
「――宝!見て、すっごく綺麗ね!」
その声にハッとした。
思わずその場を離れ、トイレに向かう曲がり角で身を隠した。
心臓がバクバクと脈打っている。
チラリと角から覗いてみれば、美男美女の二人組がすぐ真横を通り過ぎた。
「やっぱりツインタワーから見る夜景って特別感あるわよね」
昼間に会った時とだいぶ印象が違う。でもすぐにわかった。
海松町真凛さんだ。
海松町さんは昼間とは違い、真っ赤なワンピースドレスを着ていた。華やかで煌びやかで彼女自身がルビーの宝石のよう。
その隣にいるのは、宝さんだった。
宝さんの声は聞こえなかったけど、二人は並んでとあるレストランに入っていくのが見えた。
あのレストランは確か、VIP中のVIPしか入れないという一見さんお断りの超高級レストランだった気がする。
そういえば、会食だと言っていた。
本当はデートだったんだ。やっぱりそういうことなんだ。
ああ、なんで私はこんなところに来てしまったんだろう。
ここに来なければ居合わせることもなかったのに。
あんなにお似合いの二人なんて見たくなかった。
私は覚束ない足でツインタワーを出た。
お腹は減っているのにご飯を食べる気力もない。
そもそも私、これからどこに帰ればいいの――?
その時、スマホにメッセージが届いた。マミちゃんからだった。
何だかポケっとした顔のウーパールーパーのキャラクターの画像が送られてきた。のほほんとお茶を飲んでいる姿が癒される。
お疲れ様という意味なのだろうか。
よくわからなかったが、何だかホッとした。
「……あ、あれ?」
その瞬間、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。
自分でも意図せず溢れ出て、止めることができなくて戸惑う。
しばらく涙は止まらず、気づいたら電話をかけていた――。