私が一番近かったのに…
愁も気を遣ったのか、はたまた胸のことしか頭にないのか。
どちらにせよ、こうやって愁が意識してくれていることが、手に取るように分かって嬉しい。
胸でも何でもいい。私が女であることを、意識してくれている事実が、嬉しかった。

「バカ。胸ばっかり…」

わざといじけたフリをしてみた。
そうすると、困った顔をして、慌ててくれるから。

「それはお前のせいだろう。俺だって胸ばっかりじゃねーよ」

真剣な眼差しに驚いた。だって、予想していた展開と少し違ったから。
もうダメだ。私は愁のこの目に弱い。そんな目で見つめられてしまえば、何も考えられなくなってしまうのであった。

「俺ってガキみたいだな。たかが旅行に行くだけなのに、こんなにはしゃいじゃってさ。
だって嬉しかったんだ。幸奈が楽しみにしてくれている姿を見て、つい舞い上がっちまってさ。
そんな気持ちがバレたら、なんだかカッコ悪い気がして。
だから幸奈にはバレないように、必死に隠そうとしてたんだ」

愁も同じ気持ちだったんだ。嬉しさのあまり、頬が緩みそうになる。
でも、愁が舞い上がってはしゃいでる姿が、全く想像できなくて、思わず笑ってしまった。

「ふふ。そっか。でも、ごめん。全くそんな愁を想像できないや」

「笑うなよ。これでも言うの、結構恥ずかしかったんだからな」

そんなの知ってる。愁は照れ屋で、思ったことを素直に伝えられない人だって。

「うん。分かってるよ。
だから、ありがとう。ちゃんと伝えてくれて」

いつもとは逆で、私が愁の頭を撫でた。
柔らかい髪に手が触れるだけで、愁に触れているのだと実感した。

「幸奈は可愛いすぎる。反則だ」

不意打ちの可愛いは反則だ。心臓がバクバクしている…。
< 101 / 346 >

この作品をシェア

pagetop