私が一番近かったのに…
「私は可愛いよ?今更その魅力に気づいたの?」

「普通、自分で言うかよ」

「もう!可愛いって言ったのは愁の方でしょう?」

愁の胸板をポンポン叩く。力を入れずに、優しく触れるようにして、愁にボディタッチする。

「言ったよ。今のポンポン胸を叩くのも、可愛いって思ってるよ」

片手を掴まれた。ただ手を掴まれただけなのに、心臓の高鳴りが更に早まった。
今日の愁は、なんだかいつもより優しく感じた。

「そんなに可愛いってたくさん言われると、照れちゃう…」

こんなに素直すぎると、かえって逆に慣れない。ドキドキが止まらない。
だって今、私、絶対に顔が緩んでるもん…。

「幸奈、もう無理。我慢できない」

更に掴む力が強まった。掴まれた腕から愁の熱が伝わってきた。
こんな状態で、旅行会社へ予約をしに行くことは、極めて困難だ。
今日、予約するのは諦めた方が良さそうだ。

「愁がしたいなら、してもいいよ」

「お前のバカ!更に俺を煽るな。優しくしてやれないからな」

掴まれた腕を強く引っ張られ、近くの公園へと連れて来られた。
どうやら、もう一秒も待てないようだ。

「ここって…」

「ホテルまで待てない。こんな所で抱きたくはなかったが、煽った幸奈が悪い。お仕置きだ」

まさかここで…?公園の公衆トイレで、こんなことをするなんて、思ってもみなかった。

「時間がないから、あまりゆっくりはできないけど」

扉が閉まると同時に、鍵をかけられた。もう逃げ場がない。

「どうしよう。やべ。ゴム持ってないや。
あのさ、幸奈って今日は安全日?」

確か安全日だったような。…って、あれ?ゴムがないのに、最後までするつもりなの?
一気に不安が押し寄せてきて、胸が押し潰されそうな気持ちになった。
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