私が一番近かったのに…
上手く断われないからって、そんな簡単に女の子とやっちゃうものなの?
それって、ただやれれば相手は誰でもいいってことでしょ?
愁の最低な部分が、どんどん剥がれていく。

「私が誘った時は、どうして断ったの?その理屈なら、断る理由はなかったんじゃないの?」

感情的になってしまった。想いが溢れて、止めることなんてできなかった。

「幸奈は特別だから。大事にしたいって思った」

そんなに真剣に、私のことを考えてくれてたの…?

「それに俺だって、いつまでも過去の俺とは違う。
それだけ幸奈のこと、大事に思ってたってことだよ。
こんなこと俺も初めてで、正直、戸惑ってる」

あの頃の愁は常に手探りで。私に歩幅を合わせてくれていた。そんな優しい愁が、私は大好きで。
男の人にあんなに優しくされたことなんてなかったから、初めてのことでドキドキした。傍にいられるだけで幸せだった。

「俺的には今、こうしてるのが奇跡なぐらいだ」

私だって奇跡だ。でも、こんな所でするのは抵抗感が強い。
同時に、私はそういう存在なんだと思い知らされた。

「ごめん。こんな所で…」

包み込むように、抱きしめられた。
その抱きしめ方に、愁の想いが伝わってきた。

「最後まではしない。幸奈の嫌がることはできない」

まるで、ご機嫌取りをされているかのように感じた。
これはきっと愁の都合が良い方向に流れるように仕向けられているのだと、すぐに悟った。
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