私が一番近かったのに…
◇
「ありがとな。いつも俺の我儘に付き合ってくれて」
やっとこの状況を終わらせることができた。
早くこの場から立ち去りたい。一刻も早く今日のことを忘れるために。
「そして、ごめん」
頭を優しく撫でてくれた。
しかし、優しい手とは裏腹に、その目は傷ついていた。
こんな場末な場所で、自分の欲を満たすために利用したことを、後悔しているように感じた。
「もういいよ。謝ってくれたし。私も気にしてないから」
「でも、俺は最低なことをしたから…」
「それじゃ、もう二度とこういうことはしないって約束して。
ちゃんと場所さえ選んでくれれば、私は構わないから」
もう期待はしないと誓った。それでもさすがにこういった場所での行為だけは、受け入れられそうにない。これから先も絶対に。
「これからも、俺とこういうことをしてくれるの?」
「いいよ。するよ」
「幸奈がそれでいいなら分かった。これからは場所に気をつける。
こんな場所ですまなかった。でも、ありがとう」
「うん。次から気をつけて。
その代わり、旅行でたっぷり労ってもらうからね」
「分かった。この件は必ず何らかの形で返すので、旅行を楽しみに待っててください」
「楽しみにしてる。どんな形で返してくれるのかな」
「とは言ったものの、あまり期待しないでくれ。
貧乏学生だから、大したことはできないし…」
期待なんてしていない。私が愁にしてほしいことは…。
「ふーん。そっか。じゃ、期待しないでおこうかな」
いつもと立場が逆転。困っている愁を見るのが楽しくなってきた。
「お前、俺を困らせてどうしたいんだ?
まぁ、それなりにいいことしてやるから、程々に期待しておいてくれ」
顔が真っ赤だ。こんな反応されたら、気持ちが溢れ出してしまい、抱きしめてしまいそうになる。
「はいはい。ほら、早く予約しに行こう」
「そうだな。行こっか」
すると、愁が先に扉を開けてくれた。こういう時、優しくする愁にまだ慣れない。
もっと冷たくしてくれたらいいのに。私のことをモノみたいに扱ってくれたらいいのに。
心の中に広がる気持ちを、まだ消せずにいた。